債務整理 弁護士コラム
奨学金を借りて大学や短期大学に進学したものの、就職後に思うような収入が得られず、奨学金の返済に苦しむ方が増えています。奨学金の返済のために、新たな借金を抱えてしまうというケースも少なくありません。
多額の借金を抱えた場合、個人再生ができれば自己破産をすることなく借金問題を解決することができます。ただ、奨学金を個人再生する場合には、いくつかの注意点があります。
本コラムでは、個人再生をすると奨学金の返済義務はどうなるのか、連帯保証人・保証人にはどのような影響が及ぶのかについて解説していきます。
まずは、個人再生をすることによって、奨学金の借り主本人の返済義務がどうなるのかをご説明します。
貸与型の奨学金は、消費者金融や銀行などからの借り入れと同じ「借金」なので、個人再生による減額の対象となります。
民事再生法では、個人再生手続きの対象となる「再生債権」のうち、一部の損害賠償義務、婚姻費用や養育費等の支払い義務などいくつかの種類の債権については原則として減免されないと定められていますが(非減免債権、同法第229条3項)、奨学金の返済義務は非減免債権に該当しません。したがって、奨学金を返済できない場合には、個人再生を利用して減額させることが可能です。
ただし、個人再生を利用するには一定程度の安定収入が必要です(同法第231条2項1号)。また、奨学金を含む借金総額が、住宅ローン債務は除き5000万円を超える場合は、個人再生を利用することはできません(同項2号)。
個人再生では、基本的に借金総額の5分の1~10分の1程度まで(最低で100万円まで)返済義務が減額されます。どれだけ減額されるかは、借金総額に応じて民事再生法で定められています(同法第231条2項3号、4号)。
たとえば、奨学金を含む借金総額が500万円までなら、個人再生後の返済額は100万円にまで減額させることが可能です。
ただし、高価な財産を所有している場合には「清算価値保障の原則」により、返済額が増額される可能性があります。また、給与所得者等再生を利用した場合は、可処分所得の2年分を全額返済しなければならないため、小規模個人再生の場合よりも返済額が大きくなる傾向にあることにも注意が必要です。
以上のように奨学金の未払いも個人再生で解決できますが、連帯保証人・保証人がいる場合には、これらの人たちに重大な影響が及んでしまいます。そのため、奨学金の債権者を除外して個人再生を申し立てようと考える人がいますが、これは認められません。なぜなら、個人再生は裁判所を介する強制的な手続きであることから、「債権者平等の原則」が適用されるからです。
つまり、個人再生を申し立てるのであれば、すべての債権者を平等に対象としなければならず、もし、奨学金を隠したまま個人再生を申し立てても、再生計画案が認可されません。
奨学金の未払いを個人再生で解決できるとしても、連帯保証人・保証人への影響が気になる方は多いことでしょう。実際、借り主が奨学金を個人再生すると、連帯保証人・保証人には重大な影響が及ぶので、注意する必要があります。
なお、奨学金を借りる際に「保証機関」による保証を利用した場合は、保証人への影響を気にする必要はありません。債権者が日本学生支援機構などの貸主から保証機関に代わりますが、問題なく個人再生ができます。
日本学生支援機構から奨学金を借りる際に「保証人制度」を利用した場合は、連帯保証人と保証人の2人がついています。そのうち「連帯保証人」は主債務者と同一の債務を負っているため、主債務者が奨学金を支払えなくなった場合には、残りの全額について返済義務を負います。したがって、主債務者が奨学金の未払いを抱えて個人再生を申し立てると、連帯保証人は残債務全額の返済請求を受けるのです。
もっとも、再生計画案が認可されると、主債務者が支払うべき金額については連帯保証人が支払う必要はなくなります。たとえば、奨学金の残債務が300万円あり、主債務者がそのうち100万円を支払う旨の再生計画案が認可された場合、連帯保証人が支払うべき金額は残りの200万円となるのです。
「保証人」には連帯保証人とは異なり、「分別の利益」というものが認められています。分別の利益とは、保証人が複数いる場合に、各保証人はそれぞれ、保証人の人数で分割した債務額のみを負担するという原則のことです。したがって、主債務者が奨学金を支払えなくなった場合、保証人は残債務の2分の1についてのみ返済義務を負います。
この点、日本学生支援機構は、以前は保証人に対しても残債務の全額を請求していました。しかし、令和4年(2022年)5月19日に、保証人が負担すべき債務額は分別の利益により当然に減額され、本来の債務額を超えて保証人が返済した部分は日本学生支援機構の不当利得となるという旨の高裁判決が言い渡されました。
そのため、現在では日本学生支援機構は、保証人に対しては残債務の2分の1しか請求しないという取り扱いに改めています。
奨学金の個人再生は失敗するケースもあるので、注意しておく必要があります。
小規模個人再生では、再生計画案を提出すると債権者による書面決議に付されます。そして、債権者総数の半数以上、または債権総額の半分を超える債権額を有する債権者から不同意の意見が提出されると、その再生計画案は否決されます。
今のところ、日本学生支援機構やその保証機関である日本国際教育支援協会が書面決議で不同意の意見を提出したという例は聞いたことがありません。しかしながら、最近では一部の消費者金融やクレジットカード会社、銀行カードローンの保証会社などで、不同意の意見を提出する業者も出てきています。そのため、奨学金以外の借金の借入先によっては、小規模個人再生に失敗する可能性もあるといえます。
給与所得者等再生では、再生計画案の書面決議は不要です。裁判所は再生計画案の認可・不認可の判断に際して債権者の意見を聞きますが、反対意見を述べる債権者がいたとしても、裁判所が相当と認めれば再生計画案が認可されます。
ただし、給与所得者等再生では可処分所得の2年分を返済に充てなければなりません。ここにいう可処分所得とは、債務者の収入から税金などの公租公課および最低限の生活を維持するために必要な費用を控除した金額のことです。
余分となる資金を手元に残すことはできないため、再生計画案が認可されたとしても、場合によっては途中で返済が苦しくなるかもしれません。
連帯保証人・保証人がいる場合に奨学金を個人再生すると、本人の返済義務は大幅に軽減できるものの、連帯保証人・保証人が返済請求を受けてしまいます。連帯保証人・保証人も支払えない場合や、そもそも連帯保証人・保証人に迷惑をかけたくない場合には、どのような解決方法があるのでしょうか。確認していきましょう。
日本学生支援機構では、奨学金の返済が難しくなった人のために救済制度を用意しています。
月々の返済額を減らすことが可能な「減額返還制度」、返済を一時的に待ってもらうことが可能な「返還期限猶予」、死亡や精神・身体の障害が生じた場合の「返還免除」という3つの制度です。
早めに救済制度を利用すれば、連帯保証人・保証人に迷惑をかけることなく解決できる可能性もあります。
奨学金の他にも借金があり債務整理が必要な場合には、任意整理を選択することも考えられます。任意整理は裁判所を介さない手続きなので、「債権者平等の原則」が適用されません。そのため、奨学金の債権者を除外して他の借金のみを整理することが可能です。
任意整理で他の借金の返済月額を軽減すれば、奨学金については契約どおりに返済していける可能性が出てきます。
連帯保証人・保証人への影響が避けられない場合で、連帯保証人・保証人も支払えない場合には、連帯保証人・保証人にも債務整理を検討してもらうしかありません。任意整理・個人再生・自己破産の中から、連帯保証人・保証人の実情に合った手続きを選択して実行してもらえば、解決することが可能です。
主債務者が個人再生を申し立てる前に、必ず連帯保証人・保証人にも事情を話しておくことが重要です。そうしなければ、連帯保証人・保証人はある日突然に奨学金の債権者から請求を受けてしまい、落ち着いて解決策を検討できなくなる恐れがあります。
奨学金の返済ができなくなっても個人再生で解決できますが、保証人制度を利用している場合には、連帯保証人・保証人への影響に注意しなければなりません。最適な解決方法は状況に応じて異なりますので、弁護士にご相談の上、アドバイスを受けることが有効です。
ベリーベスト法律事務所では、借金問題の対応経験が豊富な弁護士が対応し、経験に基づき最適な解決方法を提案いたします。借金問題に関するご相談は何度でも無料でご利用いただけますので、お気軽に無料相談をご利用ください。
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個人再生手続は、自己破産とは異なり財産処分による債権者への返済(配当実施)を前提とせずに多額の借金を解決できる点に大きな特徴のある手続きです。
しかしながら、高い金額で処分可能な財産がある場合には、手続きにおいて一定の不利益が生じたり、その財産を失ってしまうことがあります。高額な財産を手元に残したままで多額の借金を免除することは債権者との関係で必ずしも公平とはいえませんし、高額な財産には担保が設定されている場合も少なくないからです。
そのため、債務者が自動車を保有している場合には注意が必要です。個人再生を行う際には、その取り扱いが重要なポイントとなります。
個人再生は、裁判所に申し立てることによって借金の返済額を大幅に減らすことが可能な債務整理の方法です。減額された借金は、3年~5年にわたって継続的に返済していくことになります。
ただ、この期間中にもさまざまな事情で家計が悪化し、返済が難しくなることもあるでしょう。そんなときでも、一定の要件を満たせばハードシップ免責という制度によって救済を受けることが可能です。
本コラムでは、ハードシップ免責という制度の内容や、どのような要件を満たせば完済しなくても免責されるのかについて解説します。
お金の悩みは家族であっても相談しづらい、知られたくないと感じる人が多いといえます。まして、「借金が返せずに個人再生で解決する」ということは、かなり多額の借金を抱えている場合が多いでしょう。
しかし、個人再生したことがバレて不利益を被るかもしれない、という不安がぬぐいきれずに、債務整理をするべきか迷ってしまう人も少なくありません。
実際には、個人再生をしたとしても会社などにバレるケースは必ずしも多くないといえます。
本コラムでは、具体的にどのような場面において、個人再生をしたことがバレる可能性があるのかと、バレずに債務整理を進める方法があるのかについて解説します。
借金を債務整理で解決したいものの、周囲にバレたくないと不安に感じている人は、ぜひ参考にしてみてください。