債務整理 弁護士コラム
奨学金の貸与を受けて、高校や大学に進学するのは、日本国憲法や教育基本法に定められた国民の権利です。
しかし、奨学金の貸与を受けた場合、卒業後、長期間にわたって返済を続けていかなければならず、勤務先の状況の変化により、返済が困難になるケースも少なからずあるでしょう。
そこで今回は、奨学金が返済できなくなった場合について、対処方法やそれぞれの方法における注意点などを解説していきます。
まずは奨学金が返せなくなってしまう主なパターンについて確認しておきましょう。
当然のことですが、奨学金は在学中に貸与を受けるものです。したがって、貸与を受けた時点では、その後の返済についてさまざまなことが不透明のままにあるといえます。卒業後のことを正確に予測・把握することは誰にもできないことだからです。
そのため、病気・ケガ・勤務先の都合などで、予期せぬタイミングで収入が途絶えてしまうこともあるかもしれません。最近では、コロナ禍の影響で奨学金の返還が困難となる事情を抱えてしまう人も多いと思います。
返済開始時には問題なく奨学金を返すことができても、後々、さまざまな理由で、他の負債を抱えてしまい、奨学金の返済が難しく(後回し)になってしまうことも珍しくありません。
たとえば、マイホームやマイカーの購入などによって大きな負債を抱えた上に、予定外の減収などがあった場合には、当初はきちんと返還できるはずだった予定が狂ってしまうということもありうるでしょう。
奨学金の返還が困難になった場合には、次のような方法で対応することが考えられます。
奨学金制度があらかじめ用意している各種の救済制度を利用するのが一般的な対処方法といえます。最もスタンダードな奨学金である、日本学生支援機構の奨学金では、次のような救済制度が設けられています。
① 減額返済制度
減額返還は、
・経済困難
・傷病
・災害
などの事情により奨学金の返還が困難になった場合に、毎月の返還額を2分の1、もしくは3分の1に減らし、減額返還適用期間に応じた分、返還する期間をのばすことのできる救済制度です。
② 返済期間猶予制度
返済期間猶予制度は奨学金の返還が困難になった場合、返還期限を猶予する(猶予期間は返還しなくてよい)制度です。この場合には、猶予期間分だけ返還完了の時期が後ろ倒しされることになります(返還の免除・減額を受けられるわけではありません)。
③ 返還免除
奨学生本人が亡くなった、または心身障害を負った場合、返還未済額に関して全部もしくは一部の免除を受けられる場合があります。
上記の救済制度を利用しても状況が改善しない場合や、救済制度が利用できない(審査に通らなかった)場合には、債務整理で奨学金の返済を軽減・免除してもらうことが考えられます。
債務整理の方法には、任意整理・個人再生・自己破産の三つの方法がありますが、奨学金が返還できなくなったという場合には、自己破産によって解決する場合が一般的といえます。「自己破産で解決する」というと、精神的な抵抗感がある人も多いかもしれませんが、奨学金の返還には次のような特徴があるため、自己破産以外の方法では債務整理が失敗に終わる可能性が高いからです。
任意整理による借金の減額は、利息の免除による方法が主となります。そのため、無利息もしくは低金利で貸与されることが一般的な奨学金のケースでは、任意整理をしても最終的な返済額がほとんど変わらないという場合の方が多いといえます。
個人再生では、残元金の免除を受けることができますが、返済期間が原則3年間となるため、残元金の額が大きいケースでは、個人再生によって一部免除を受けたとしても、毎月の支払額が高額になるために、解決方法として適さないケースが少なくないのです。
奨学金を自己破産で解決する場合には、免責による返済の完全免除を得られる代わりに、一定の悪影響が生じうることに注意が必要です。
自己破産した場合に生じうる悪影響としては次の四つを挙げることができます。
① 信用情報が汚れてしまう
奨学金が返還できなくなり自己破産した場合には、金融機関の借金を自己破産した場合と同様に信用情報が汚れてしまう場合があります。たとえば、日本学生支援機構の奨学金を自己破産した場合には、全国銀行個人信用情報センターの信用情報に破産手続開始のときから10年間登録されることになります。
② 財産が処分される場合がある
自己破産は、債務者の財産と負債とを裁判所が強制的に清算するための手続きでもあります。そのため、一定の財産を持っている人が自己破産した場合には、財産を強制処分されてしまう場合があります。
③ 連帯保証人に迷惑をかけてしまう
奨学金の貸与を受ける際には連帯保証人を立てる場合が少なくありません。このような場合に、奨学金を自己破産で解決すると、連帯保証人に奨学金残額の一括請求がなされてしまい、迷惑をかけてしまうことを回避することができません。
特に、奨学金の連帯保証人は、親・兄弟といった家族がなる場合が多く、自己破産をした債務者と家計が同じというケースも珍しくありません。そのため、奨学金を原因とする自己破産では、その連帯保証人である家族も同時に自己破産するケースがしばしば見受けられます。
④ 仕事に影響が出る場合がある
自己破産した場合には、国家資格などに悪影響が生じる場合があります。たとえば、弁護士・司法書士などのいわゆる士業とよばれる方や、宅地建物取引士、旅行業務取扱管理者などの国家資格を用いて仕事をしている場合にも資格停止による悪影響が生じることがあるので注意が必要です。さらに、警備員として働いている人は、一定期間は警備業務に従事することができなくなります。
自己破産はネガティブな印象を持っている人が多く、上記のような悪影響・デメリットが生じることにも大きな不安を持っている人は多いでしょう。しかし、これらの悪影響は、すべての自己破産で生じるというわけではありませんし、限定的な影響でしかない場合も少なくありません。
たとえば、自己破産をしたとしてもすべての財産を当然に失ってしまうわけではありません。99万円までの現金を手元に残せるだけでなく、生活に必要な家具・家電の類いも差し押さえが禁止されていますので、「自己破産しても全く財産を失わない」というケースも珍しくはありません。
また、仕事への影響についても影響の生じない職種の方が圧倒的に多いだけでなく、悪影響が生じる場合であっても、事前に報告し必要な対応を講じることで職場への影響を最小限にすることも十分可能といえます。
上でも触れたように、自己破産を検討する場面ではどうしても悪影響ばかりに目が行きがちですが、返還できなくなった奨学金を自己破産で解決することは、次のような点で任意整理や個人再生よりも優れています。
返還できなくなった奨学金を自己破産で解決する最大のメリットは、免責を受けることで残っている奨学金の返還を完全に免除してもらえることです。奨学金が備えている救済制度では、毎月の返還額の減額、返還の一時的な猶予といった対応をしてもらうことは可能ですが、返還額それ自体の減額・免除を受けられることは、例外的なケースを除いてはありません。
特に、大学院まで奨学金の貸与を受けていたケースなどでは、返還総額が500万円を超えることも珍しくありませんので、自己破産による免責の効果はとても大きいのです。
他にも借金を抱えていることが原因で奨学金の返還が困難となった場合や、奨学金返還のためにさらに借金を抱えてしまったようなケースでは、奨学金だけを解決しても問題の根本解決につながらない場合があります。
自己破産手続は、すべての負債が対象となり、免責を得られれば、奨学金だけでなく他の借金も含めたすべての借金を同時に解決することができます。
自己破産以外の解決方法は、手続き後に奨学金の残額(の一部)を分割で返済していく必要があります。そのため、失職などにより収入が完全になくなってしまったというケースでは解決方法として選択することができません。また、収入があったとしても家計が苦しく返済の余裕がない場合も同様です。
しかし、自己破産して免責を得ることができれば、今後の返済は一切不要になるので、収入がなくなってしまったという人や、家計が苦しくて返済の余裕が全くないという人でも奨学金を確実に解決できます。
奨学金は貸与額が多額で返済期間もかなりの長期間になるのが一般的です。救済制度を利用すれば、返済を先送りにすることはできますが、収入が安定しない方の場合には、再度返還に行き詰まるリスクを抱えることになります。
この点、自己破産であれば免責により返還の完全免除を得ることができるので、数ヶ月~1年程度の期間で他の手続きを利用した場合よりも早く問題を解決することができます。
奨学金の返還は、多額の貸与額を長期間かけて返済することになるため、不確実・予測不能な出来事にも左右されやすいといえます。また、家族・親類を連帯保証人として立てているケースも多く、連帯保証人も一緒の自己破産することを検討しなければならない場合も少なくありません。
しかし、奨学金の返済のために、金融機関などから借金をすることになれば、奨学金よりも高利の借金を抱えることになるため、状況はさらに悪化してしまいます。ベリーベストでは、借金や奨学金返還に関するご相談は何回でも無料でご利用いただけます。万が一、奨学金の返還が難しいと感じた場合には、できるだけ早くご相談ください。経験豊富な弁護士がそれぞれのケースに適した解決方法をご提案させていただきます。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
債務整理、任意整理、自己破産、個人再生、過払い金請求など、借金問題についてのお悩み解決を弁護士がサポートいたします。債務整理のご相談は何度でも無料です。ぜひお気軽に お問い合わせください。
自己破産は、裁判所に申し立てることにより借金の返済義務をすべて免除してもらうことができる債務整理の方法です。一定の条件のもとに裁判所が免責を許可することにより、債務者が経済生活を再生する機会を確保します。
ただ、自己破産後に生活を立て直すために努力をしても、事情があって再び借金を抱えてしまい、再度、自己破産をする必要性が出てくることもあるでしょう。
本コラムでは、自己破産は何回できるのか、また複数回できるとして、2回目以降の自己破産で気を付けるべきことについて、ベリーベスト法律事務所 債務整理専門チームの弁護士が解説します。
自己破産すると、一定の評価額を超える財産は処分しなければなりません。もちろん、車も評価額によっては処分の対象となります。
とはいえ、仕事で車の使用が必要不可欠という方や、お住まいの地域や生活状況によっては日常生活に車が欠かせないという方も少なくないことでしょう。
そこで、本コラムでは、自己破産をすると車はどうなるのかを解説し、車が処分対象となった場合でも自己破産後に車を使用できる方法もご紹介します。
借金を作った原因によっては自己破産が認められないことがあるって聞いたけど本当?
カードローンでお金を借りて、まだ1回しか返済してない。この状況でも自己破産は認められる?
実際に自己破産の手続きを進めていこうと考えている方の中には、上のような不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
確かに、令和2年の司法統計を確認すると、自己破産を申し立て結論が出た個人(統計上は自然人と表記)72329人のうち、90人は棄却又は却下となっています。
(出典:令和2年司法統計 第108表 破産既済事件数-破産者及び終局区分別-全地方裁判所)
自己破産の手続きを進めていくうえで、もっとも大きな障害となるのが「免責不許可事由」の問題です。
免責不許可事由とは、自己破産による免責が認められないケースのことで、ギャンブルや浪費など借金を作った原因によっては借金の免責が認められないことがあるのです。
一方で、免責不許可事由に該当してしまうケースであっても、裁判官の判断によって免責が認められることもあることも理解しておきましょう。
今回は、以下のような項目について具体的に解説いたします。
・免責不許可事由について
・免責不許可事由になるケース
・免責不許可事由でも免責になる裁量免責について
・自己破産をしても免責されない(非免責債権)借金について
・自己破産できない場合に借金から解放される方法
自己破産についてのルールを正しく理解し、適切に手続きを進めていけば借金の苦痛から脱することができます。この記事があなたの借金解決に役立てば幸いです。