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親の借金を時効で解決できる条件や注意点【民法改正にも対応】

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更新日:2021年01月25日 公開日:2021年01月25日

親の借金を時効で解決できる条件や注意点【民法改正にも対応】

親が亡くなって何年も経過してから、金融機関や債権回収会社など親の債権者を名乗る関係各所から借金を督促されることがあります。

全く知らなかった多額の借金の支払いを突然請求されれば、誰でも驚き、慌ててしまいます。しかし、このような場合には、消滅時効で借金の返済義務を免れられる可能性も残されていますので、落ち着いて適切な対応をとることが重要です。

本記事では、親が残した借金を消滅時効で解決できる条件や、消滅時効を用いる際の注意点などについて解説します。

1、子どもは親の借金を返済しなければならないのか?

まずは、親の借金を子どもが返済しなければならないのかという点から確認します。

  1. (1)子どもであるからといって返済義務は生じない

    「子どもである以上親の借金は返さなければならない」と思っている人も多いですが、道義的な責任はさておき、法律でそのような義務は定められていません。借金はあくまでも、借金の名義人となった個人の問題であって、親子関係があるということだけを理由に子どもに親の借金の返済義務が発生することはありません

    消費者金融やクレジットカード会社に適用される貸金業法や金融庁が定めた金融機関向けの業務ガイドラインでは、債務者以外の者への債務弁済の要求を禁止しています(貸金業法21条1項7号)

  2. (2)子どもが親の借金を返済しなければならない三つの場合

    以上のように、子どもであるからといって親の借金を返済する必要はありません。しかし、次の三つの事情がある場合には、例外的に子どもにも親の借金の返済義務が発生していまいます。

    ①子どもが親の借金の連帯保証人である場合

    連帯保証人となった場合には、主たる債務者と同等の責任が発生します。したがって、子どもが親の借金の連帯保証人となっている場合は、親子関係の有無とは別に返済義務が生じ、債権者からの督促に応じなければなりません

    ②親が子どもの名義で借金していた場合

    子どもが借金の名義人となっていた場合には、実際にお金を借りたのが親であったとしても、子どもに返済義務が発生すると考えられます。
    親が子どもの名義を用いて借金することを了承している場合であれば、そもそも借金の契約は、子どもと債権者との間で交わされたものと考えることになるからです。

    また、親が子どもに無断で実印などを持ち出して借金の契約をした場合でも、債権者が金融機関などの金融取引の専門家以外であった場合には、子どもに返済義務があると判断される場合が多いでしょう。
    専門家でなければ、実印と印鑑証明書を持参した人が正当な代理人であると信じる可能性は高く、また、実印などを親が勝手に持ち出せる場所で管理していることについて、子どもにも落ち度(過失)があるとの指摘もされるからです。
    このような場合には、その取引(借金の契約)について善意である相手方を保護するべきと民法は考えています(民法110条)。

    なお、親が子どもの印鑑を無断で持ち出して銀行や消費者金融から借金したという場合には、子どもには返済義務が生じない可能性が高いといえます。銀行や消費者金融には、金融取引の専門家として高度の注意義務があると考えられるので、印鑑を持参してきただけの相手を信頼することは、取引のあり方として問題があるといえるからです。

    ②親の借金を相続した場合

    親が亡くなった場合には財産の相続が発生しますが、プラスの財産だけでなく、借金などの負債もすべて相続することが原則となります(これを「単純承認」といいます)。
    負債を一部でも相続した場合、親が残した借金の返済義務もあわせて受け継ぐ必要があるのです。

    また、親の借金を相続したくないという場合には、「相続放棄」を選択することができます。
    しかし、相続放棄は、相続開始から原則として3か月以内に手続きをしなければなりません。亡くなった親の借金の督促は、相続開始(親が亡くなってから)から何か月、あるいは何年も経過してからなされることもあるので、借金の存在に気づいた場合には相続放棄可能な期間を過ぎていたということも珍しくありません(なお、相続開始から3か月が経過した場合であっても、借金の存在を知ってから3か月以内であれば相続放棄は可能とする下級審判決もあります)。

    また、相続放棄をする際には、プラスの財産も含めてすべての財産を放棄しなければなりません。「借金だけを放棄する」ということはできず、不動産などを相続したいという場合には、借金も相続するほかありません。

2、親の借金を消滅時効で解決できる場合

前述したように、亡くなった親の借金は、死後数年以上経過してから突然返済を求められることも珍しくありません。

このようなケースでは、遅延損害金の蓄積などもあって多額の支払いを求められることが多く、慌ててしまいがちですが、「消滅時効を援用する」ことで借金の返済義務を消滅させられる可能性があります。

  1. (1)消滅時効とは

    消滅時効とは、権利者が一定期間権利行使をしなかった場合に、その権利(義務)が消滅してしまうという制度です。親が亡くなってから何年も経過してから督促された借金の場合には、督促の時点ですでに消滅時効が完成している可能性が高いといえます。

  2. (2)消滅時効で借金を解決するための条件

    消滅時効で借金を解決するためには、次の条件を満たしている必要があります。

    • 時効期間が完成していること
    • 債務者が消滅時効の援用をすること


    ① 時効の完成とは

    消滅時効によって借金の返済義務を消滅させるためには、法律が定めている時効期間が完成している必要があります。借金の時効期間は、「最後の返済期日(の翌日)から5年」が原則です。この間に債権者から権利行使(訴訟提起など)を受けていなければ、時効の援用により、借金の返済義務を消滅させることができます。

    亡くなった親の借金は、生前中の期間も含め子どもに受け継がれます。したがって、死後数年たってから債権者に初めて督促されたというケースでは、すでに5年の時効期間が完成している可能性が高いといえるでしょう。

    なお、時効期間については、令和2年4月1日から施行された新しい民法で大きな改正がなされました。これまでは、商事債権(金融機関などからの借金)とそれ以外の借金(知人からの借金)とでは、前者の時効期間が5年、後者の時効期間は10年という区別がありました。しかし、この区別は撤廃され「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から10年間」ということに統一されました(民法166条)。

    令和2年4月1日以前の借金の時効期間については、改正前の民法の規定が適用されることになりますので、親が友人・知人などから借金していた場合は注意が必要です。

    ②時効の援用とは

    消滅時効によって借金の返済義務を消滅させるためには、時効が完成した後に債務者自身が「時効の援用」とよばれる行為の必要があります。返済期日から5年間が経過しただけでは借金の返済義務はなくなりません。

    時効の援用は、「時効の効果によって利益を受ける(借金の返済を免れる)」という意思を相手方(債権者)に表示する行為です。
    その方法は、法律上は特に制限がなく、口頭(電話での通知など)でも有効です。しかし、実務においては、後のトラブルを予防するために、内容証明郵便を送付する方法で行われるのが一般的です。

    この場合、書面に厳格な書式などはありませんが、当事者と権利を特定するために下記の情報を記載する必要があります。書面の作成に不安があれば、弁護士に依頼してもよいでしょう。

    • 債務者の氏名・住所
    • 債権者の氏名・名称・所在地
    • 消滅時効の対象となる借金を特定できる情報(契約番号や借金の借入日など)
    • 消滅時効が完成していること(返済期日から5年を経過していること)
    • 消滅時効によって返済を免れる意思があること
  3. (3)債務承認に注意

    親の死後何年も経過してから借金の督促をされた場合、すでに消滅時効が完成しているケースが多いといえます。しかし、督促を受けた子どもが借金の存在を認める対応をした場合、消滅時効の援用ができなくなりますので注意しましょう。

    ①債務承認に該当する場合

    民法152条により、債務者が債権者に対して債務の存在を認めた場合、それまで進行していた時効期間はゼロに戻ります。これは「時効の更新」とよばれるもので、改正前の民法では「時効の中断」とされていましたが、呼称が改められただけで内容自体は変わりがありません(令和2年4月1日以降に発生した更新事由については、借金の時期に関係なく改正後の民法(現行民法)が適用されることになります)。

    借金の消滅時効に関しては、借金があることを口頭で認めるようなことは当然ですが、次のような行為も債務の承認に該当するといえます。

    • 借金の一部返済
    • 利息の支払い
    • 債権者に借金返済の猶予の申し出


    親の死後数年たってから多額の借金の一括返済を求められたようなケースでは、突然のことに驚き、うっかり債務承認に該当する対応をしてしまう可能性も高いといえます。

    ②時効完成後の債務承認の効果

    時効完成後であっても、債務承認してしまった場合には時効を援用する権利を失います(最高裁判所(大法廷)昭和41年4月20日判決民集20巻4号702頁)。

    このような取り扱いになるのは、債務承認後にその借金について消滅時効の援用をすることは「債権者に対する信義に反する」ということを根拠にしています。

    しかし、金融機関からの借金の督促などの場合には、債権者側はすでに消滅時効の完成を認知していることがほとんどです。法律の知識がない債務者が「突然の予期せぬ取り立て」に驚き困惑することに乗ずる目的で、確信犯的に督促が行われる可能性はゼロではありません。そのような場合にまで、上記の判例法理の適用は公平とはいえないでしょう。

    具体的には、次のような事情の下で「うっかり債務承認してしまった」にすぎないケースでは、債務承認後であっても消滅時効を援用できる余地は十分に残されているといえます。

    • 元金に対して少額の返済(10万円の借金に対する1000円程度の返済や利息の支払い)をしたに過ぎない場合
    • 債務者が消滅時効の制度について知識がなかった場合
    • 債権者側は消滅時効の完成を知った上で債権者に督促した場合

3、相続放棄・消滅時効で解決できない場合の対処方法

親が借金を完済しないまま亡くなってしまった場合でも、相続放棄や消滅時効によって解決できるケースは少なくありません。
しかし、「実家は相続したいが、借金を一括返済できるだけのまとまったお金がない」という場合や、「消滅時効が完成していなかった」というケースもないわけではありません。

  1. (1)亡くなった親の借金を放置しておくリスク

    このようなケースでは、できるだけ早期の対応が大切です。返済の苦しい借金は、対応が遅くなるほど状況も悪化していく可能性が非常に高いからです。

    たとえば、返済義務を免れることができない借金をそのまま放置していれば、次のような不利益が生じる可能性はあります。

    • 遅延損害金が増えていく
    • 信用情報が悪化する(ブラックリスト入りしてしまう)
    • 債権者に訴えられ、給料などを差し押さえられてしまう
  2. (2)債務整理による借金の軽減

    相続放棄・消滅時効での解決ができず、返済できるだけのお金もない場合、債務整理で親の借金を解決するのがベストといえます。債務整理をすれば、借金返済の負担を軽減することが可能だからです。

    債務整理というと自己破産を思い浮かべる人も多いといえますが、任意整理・個人再生という方法もあり、これらの手続きで解決できるのであれば、財産の差し押さえが行われることもありません。

    また、亡くなった親が10年以上も前から借金していたというようなケースでは、過払い金によって借金を解決できる可能性も残されていますので、「借金が返せない」と諦めてしまわずに弁護士に相談してみるのが最善の対処方法といえるでしょう。

4、まとめ

亡くなった親が家族の知らないところで多額の借金を抱えていたというようなことが発覚すれば、誰でも動揺してしまうものです。このような借金は、消滅時効や相続放棄などの方法で解決できる場合も少なくありません。慌てて返済や利息の支払いに応じず、できるだけ早く弁護士へ相談することをおすすめします。

このような問題は、相続開始時に借金の調査をしっかり行うことで防ぐことも可能です。「もしかしたら親が借金を残したままなくなってしまったかもしれない」と不安に感じた場合など、お早目にベリーベスト法律事務所までお問い合わせください。

この記事の監修者
萩原達也

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
債務整理、任意整理、自己破産、個人再生、過払い金請求など、借金問題についてのお悩み解決を弁護士がサポートいたします。債務整理のご相談は何度でも無料です。ぜひお気軽に お問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
オフィス
[実績]
・債務整理の相談件数 36万8091件
  ※集計期間:2011年2月~2022年12月末
・過払い金請求 回収実績件数 90253件
・過払い金請求 回収実績金額 1067億円以上
  ※集計期間:2011年2⽉〜2022年12⽉末
[拠点・弁護士数]
全国74拠点、約360名の弁護士が在籍
※2024年2月現在
[設立]
2010年(平成22年)12月16日

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