債務整理 弁護士コラム
個人再生は、裁判所に申し立てることによって借金の返済額を大幅に減らすことが可能な債務整理の方法です。減額された借金は、3年~5年にわたって継続的に返済していくことになります。
ただ、この期間中にもさまざまな事情で家計が悪化し、返済が難しくなることもあるでしょう。そんなときでも、一定の要件を満たせばハードシップ免責という制度によって救済を受けることが可能です。
本コラムでは、ハードシップ免責という制度の内容や、どのような要件を満たせば完済しなくても免責されるのかについて解説します。
免責とは、借金の返済義務が免除されることです。自己破産では、裁判所の「免責許可決定」が確定すると借金の返済義務が免除されます。それに対して、個人再生では裁判所の免責許可決定が出るわけではありません。再生計画案が認可されても、それだけではまだ、残りの借金の返済義務が免除されていないことに注意が必要です。
個人再生の手続きにおいては、今後の返済額と返済方法を記載した再生計画案を裁判所に提出します。返済額は多くの場合で借金総額の5分の1、最大で10分の1にまで減額できます。返済期間は原則として3年、最長で5年です。その間、3か月に1回以上のペースで返済する内容の再生計画案を作成し、提出しなければなりません。
返済を開始するのは、再生計画案が裁判所で認可され、その認可決定が確定した日の翌月からです。認可決定が確定すると借金の返済義務は再生計画の内容どおりに変更され(民事再生法第232条1項、第244条)、裁判所での手続きは終了します(同法第233条、第244条)。
ただし、その後の返済を滞納した場合には、債権者の申し立てによって、再生計画が取り消されることがあります(同法第189条1項2号)。取り消されると再生計画案の認可決定がなかったことになるので、借金が減額前の状態に戻ってしまいます。
つまり、再生計画に従って返済を継続し、完済して初めて免責が認められるということです。
再生計画に基づく返済は3年~5年という長期間に及ぶので、その間に病気や事故による怪我、リストラなどの事情で返済が難しくなることも十分に考えられます。
やむを得ない事情で返済できなくなったとき、少しでも返済が残っていれば再生計画が取り消されるとしたのでは、債務者にとって酷に過ぎるともいえます。このような場合の救済措置として用意されているのが、ハードシップ免責という制度です。
一定の要件を満たす場合には、裁判所に申し立てることで「免責決定」を得ることができます。免責決定が確定すると、再生計画の残りの返済義務が免除され、借金がすべてなくなります。
ただし、ハードシップ免責の要件は非常に厳しいので注意が必要です。
ハードシップ免責が認められるのは、4つの要件をすべて満たす場合に限られます。
まず、再生計画どおりに返済を継続することが「極めて」困難な状態であることが必要です(民事再生法第234条1項柱書き、第244条)。一時的に家計が悪化したとしても、再生計画を変更して返済期間を延長することで返済の継続が可能な場合は、この要件を満たしません(同項4号)。
ハードシップ免責が認められるには、病気や怪我などの影響で長期間にわたって働けない、リストラされた後に以前と同等の収入が得られる仕事に就くことが難しいなど、将来にわたって返済不能に近い状態でなければなりません。
返済の継続が極めて困難となった原因が、債務者の責めに帰すことができない事由であることも要件のひとつとされています(同法第234条1項柱書き、第244条)。
自己破産したわけでもないのに免責を認めるためには、債権者の利益も考慮する必要があるので、債務者自身がコントロールできない事情が要求されるのです。浪費によって返済が難しくなったような場合はもちろんのこと、転職のために自己都合退職したところ、結果として収入が減少したような場合も、この要件を満たさない可能性が高いといえます。
再生計画に基づく返済総額の4分の3以上を返済した後でなければ、ハードシップ免責は認められません(同項1号、2号)。
この要件も、債権者の利益を考慮して定められたものです。少ししか返済していない段階で免責を認めると、債権者が一方的に損失を被ることになってしまいます。ハードシップ免責は、誠実に返済を継続してきて、あと少しで完済できるはずだった債務者を救済するための措置なのです。
債権者の利益を考慮した要件としてもうひとつ、「債権者の一般の利益に反しないこと」というものもあります(同項3号)。わかりやすくいうと、清算価値保障の原則に反する場合はハードシップ免責が認められないということです。
清算価値保障の原則とは、債務者の所有財産の総額に相当する金額(清算価値)は最低限、個人再生で返済しなければならないという決まりのことです。言い換えると、個人再生で免責を受けるためには、自己破産した場合に債権者へ配当する金額以上を返済しなければならないということです。
したがって、再生計画に基づく返済総額の4分の3以上を返済していても、それまでの返済額が清算価値の金額に達していない場合は、ハードシップ免責が認められません。
ハードシップ免責にはデメリットもあります。ハードシップ免責の申し立て前に、以下の点に注意が必要です。
ハードシップ免責の決定が確定すると、住宅ローンも含めてすべての借金の返済義務が免除されます(民事再生法第235条6項)。再生計画で住宅資金特別条項を定めている場合でも同様です(同条8項)。
ただし、住宅に設定している抵当権には免責の効果が及ばない(同条7項)ため、住宅ローン債権者はその住宅を競売にかけ、残債務を回収することが可能となります。住宅ローン債権者との交渉次第ではマイホームを残せる余地もありますが、交渉がまとまらなければマイホームを失ってしまいます。
免責の決定を受けると、その決定が確定した日から7年間は自己破産および給与所得者等再生で免責を受けることはできなくなります(自己破産につき破産法第252条1項10号イ、給与所得者等再生につき民事再生法第239条5項2号ハ)。
ハードシップ免責が認められるケースでは経済状況が極めて悪化しているはずですが、再び借金をした場合には債務整理の手段が限られてしまうことに注意が必要です。
ハードシップ免責の要件は非常に厳しいため、実際に認められるケースはごくわずかです。要件を満たさない場合には、以下の対処法を検討する必要があります。
再生計画に基づく返済がやむを得ない事由で著しく困難となった場合には、再生計画を変更して返済期間を最大で2年延長できる可能性があります(民事再生法第234条1項、第244条)。
ただし、小規模個人再生では、反対する債権者が多い場合には再生計画の変更が認められません(同条2項)。再生計画の変更を認めてもらうためには、返済が苦しくなったら早めに各債権者に事情を伝えて理解を求めることが重要となります。
返済期間の延長も認められない場合は、自己破産に切り替えざるを得ないでしょう。とはいえ、自己破産では免責不許可事由がない限り、残りの借金の返済義務がすべて免除されます(破産法第252条1項)。
ハードシップ免責が認められない以上、自己破産への切り替えはいつでも可能です。最終手段ではありますが、自己破産の申し立ても視野に入れておきましょう。
再生計画に基づく返済が途中で困難となった場合でも、一定の要件を満たせばハードシップ免責で残りの借金の返済義務を免除してもらうことが可能です。ただし、認められるケースは数少ないため、多くの場合は他の解決方法を検討する必要があるのが実情です。
ベリーベスト法律事務所にご相談いただければ、経験豊富な弁護士がハードシップ免責の可否を検討し、難しい場合でも最適な解決方法を提案いたします。債務整理に関するご相談は何度でも無料でご利用いただけますので、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。
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個人再生とは、基本的に財産を処分することなく、借金を大幅に減額できる債務整理の方法です。
個人再生の大きなメリットのひとつとして、「住宅ローン特則(住宅資金特別条項)」があります。これは、一定の条件を満たしていることで、自宅を維持しながら借金を整理できる制度です。
本コラムでは、個人再生の住宅ローン特則の内容や利用条件、特則を使えないときの対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
個人再生手続は、自己破産とは異なり財産処分による債権者への返済(配当実施)を前提とせずに多額の借金を解決できる点に大きな特徴のある手続きです。
しかしながら、高い金額で処分可能な財産がある場合には、手続きにおいて一定の不利益が生じたり、その財産を失ってしまうことがあります。高額な財産を手元に残したままで多額の借金を免除することは債権者との関係で必ずしも公平とはいえませんし、高額な財産には担保が設定されている場合も少なくないからです。
そのため、債務者が自動車を保有している場合には注意が必要です。個人再生を行う際には、その取り扱いが重要なポイントとなります。
個人再生は、裁判所に申し立てることによって借金の返済額を大幅に減らすことが可能な債務整理の方法です。減額された借金は、3年~5年にわたって継続的に返済していくことになります。
ただ、この期間中にもさまざまな事情で家計が悪化し、返済が難しくなることもあるでしょう。そんなときでも、一定の要件を満たせばハードシップ免責という制度によって救済を受けることが可能です。
本コラムでは、ハードシップ免責という制度の内容や、どのような要件を満たせば完済しなくても免責されるのかについて解説します。