債務整理 弁護士コラム
自己破産によって免責が得られれば、どのように高額の借金を抱えていても全額免除されます。しかし、その反面で持ち家を失ったり、信用情報機関に事故情報が登録されたりするなどのデメリットも生じます。
そのため、「自己破産をすると、今住んでいる賃貸住宅から追い出されるのではないか」「その後も賃貸住宅は借りられないのではないか」という不安もあることでしょう。
結論として、自己破産をしても「賃貸借契約」に法的な影響はありません。しかし、家賃保証会社の利用が条件となっている物件では「保証契約」に影響が及ぶことがあるので、注意が必要です。
本コラムでは、自己破産をして賃貸住宅から追い出されるケースや、新たに賃貸住宅をスムーズに借りる方法などについて、ベリーベスト法律事務所 債務整理専門チームの弁護士が解説します。
自己破産をしても、今住んでいる賃貸住宅から追い出されることは、原則としてありません。しかし、例外的に追い出されることもあります。以下で、原則と例外についてご説明します。
かつての民法では、「借主が自己破産をすると、貸主が賃貸借を解約できる」という規定がありました。しかし、平成17年(2005年)1月1日から施行された改正民法では、この規定が削除され、現在では借主の自己破産は賃貸借契約の解除理由として認められていません。
したがって、自己破産したことを貸主に知られたとしても、原則として、一方的に賃貸借契約を解除されて追い出されることはないのです。
家賃滞納の状態で自己破産をして免責が許可されると、滞納家賃の支払い義務も免除されます。
この場合には、滞納家賃が支払われないままとなるので、貸主は債務不履行を理由として賃貸借契約を解除することが可能です(民法第542条1項5号)。契約を解除されると、自主的に立ち退かなければ、強制的に追い出されてしまいます。
ただし、家賃の滞納がおおむね3か月分以内の場合は、自己破産手続き中でも裁判所の裁量により、滞納家賃の支払いが許されることもあります。滞納を解消すれば、賃貸住宅から追い出されることはありません。
家賃保証会社を利用している場合には、賃貸借契約の更新時にも保証会社による審査が行われることがあります。その際、信用情報に自己破産による事故情報が登録されていると、保証契約の更新を拒否される可能性が高いのが実情です。
もっとも、保証会社が更新を拒否したことだけが理由で賃貸住宅から追い出されることはありません。なぜなら、貸主が賃貸借契約の更新を拒絶するためには「正当な事由」が必要であり(借地借家法第28条)、保証会社の更新拒否は「正当な事由」に該当しないからです。
貸主からは、別の保証会社の利用や、連帯保証人を立てることを指示されるでしょう。別の保証会社の審査にも通らず、連帯保証人を用意することもできないような場合には、退去勧告を受けるおそれがあります。
退去勧告に強制力はありませんが、居づらくなって退去してしまい、追い出されたのと同じような結果となるケースもあることは否定できません。
自己破産後の賃貸借契約における審査では、「貸主による審査」と「保証会社による審査」の両面に注意が必要です。
貸主による審査では、「家賃の支払い能力があるか」「人柄に問題がないか」という点が重視されます。そのため、勤務先や年収などを聞かれることがあります。定職に就いていて安定収入があれば、反社会勢力と関わりがあるようなケースを除いて、審査で落とされることはほとんどありません。
契約更新時には、特に審査が行われないことも多々あります。
保証会社による審査では、支払い能力が何よりも重視され、客観的な資料に基づき厳しい審査が行われる傾向にあります。特に、信販系の保証会社は信用情報機関に加盟しているので、入居予定者や居住者の信用情報を照会します。
その際、自己破産による事故情報が登録されていると、支払い能力に問題があると判断され、審査で落とされる可能性が高いのです。
ただし、自己破産による事故情報は免責許可決定から5年程度(一部5年よりも長く残る信用情報機関もあります)で削除されるので、その後は保証会社の審査にも通るようになります。
自己破産後に賃貸住宅を借りることは十分に可能ですが、以下の点に注意すれば、よりスムーズに借りられます。
すべての賃貸物件において、保証会社の利用が条件とされているわけではありません。現在でも、連帯保証人を用意すれば入居できる賃貸住宅は数多くあります。連帯保証人を立てる場合には、通常、信用情報は照会されないため、自己破産後でも契約可能です。
ただし、同居人以外で、支払い能力に問題がない連帯保証人を探す必要があることに注意しましょう。
保証会社の利用が条件とされている賃貸物件でも、同居人(配偶者、親、子など)の名義で契約すれば、審査を通過できる可能性があります。
この場合には、契約名義人となる同居人の信用が審査の対象となるため、同居人の年収が少ない場合などでは審査で落とされる可能性もあることに注意が必要です。
家賃保証サービスは、さまざまな会社が提供していますが、大きく分けると次の3種類の系統があります。
系統の種類 | 保証会社の性質 |
---|---|
信販系 | 信販会社やクレジットカード会社で、家賃保証サービスも提供している会社 |
協会系 | 信用情報機関ではなく、全国賃貸保証業協会(LICC)に加盟している家賃保証会社 |
独立系 | 信用情報機関にも全国賃貸保証業協会にも加盟せず、独自の審査基準で家賃保証サービスを提供している会社。「民間系」と呼ばれることもある |
協会系と独立系の保証会社は、審査の際に入居予定者・居住者の信用情報を照会できません。そのため、自己破産後でも協会系または独立系の保証会社を選べば、審査を通過できる可能性が十分にあります。
ただし、協会系の保証会社はLICCのデータベースに登録されている家賃滞納履歴を照会することが可能です。そのため、家賃を滞納したことがある方は、審査で不利となる可能性があります。
3つの系統の中では、独立系の保証会社を利用すれば、もっとも審査に通りやすいといえます。
どの保証会社を利用するかは貸主が指定するのが一般的ですが、不動産会社に事情を話して相談すれば、審査に通りやすい物件を紹介してくれるはずです。
なお、審査基準の難易度と反比例して、保証料の金額は「独立系>協会系>信販系」の順に高くなる傾向があることにご注意ください。
一般的な賃貸住宅の審査に通りにくい場合には、公営住宅やUR住宅を探してみましょう。公営住宅やUR住宅なら、保証会社の利用は必要ありません。
公営住宅とは、都道府県・市町村などの公的機関が、主に低所得者を対象として運営している賃貸住宅です。連帯保証人が必要な物件もありますが、近年は国土交通省の方針に基づき、連帯保証人も不要の物件が増えてきています。
UR住宅とは、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)が運営する賃貸住宅です。UR住宅なら連帯保証人もいりません。礼金や更新料も不要というメリットもある反面で、家賃が相場よりも高い物件もあることに注意が必要です。
家賃を滞納したまま自己破産をすると、今住んでいる賃貸住宅から追い出される可能性があります。だからといって、家賃の滞納を隠して自己破産を申し立てたり、申し立て前に滞納家賃を一括で支払ったりすることは控えるべきです。
自己破産を申し立てる時点で家賃を滞納していると、大家も債権者として裁判所に申告する必要があります。
もし、大家を債権者一覧表に記載せずに申し立てると、免責不許可事由に該当するため(破産法第252条1項7号)、借金の免除が受けられなくなる可能性があるので注意が必要です。
自己破産の申し立ての前に、特定の債権者のみに返済することを「偏頗弁済」といいます。滞納家賃だけを一括で返済することも偏頗弁済に当たり、この行為も免責不許可事由に該当します(破産法第252条1項3号)。
家賃を滞納している場合には、そのままの状態で自己破産を申し立てましょう。滞納金額が小さい場合には、裁判所の裁量で滞納家賃の支払いが許されることもあります。滞納金額が大きい場合には、新たな賃貸住宅を探して転居し、滞納家賃については免責を受ける方が得策であるといえるでしょう。
自己破産をしても賃貸住宅の契約には影響がないことが多いですが、保証会社を利用しなければならない場合と、家賃を滞納している場合には注意が必要です。困ったときは自己判断で対処せず、弁護士に相談して専門的なアドバイスを受けることをおすすめします。
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自己破産とは、裁判所が免責許可を下した場合に限り、原則としてすべての借金返済義務が帳消しになる債務整理手続きのことです。自己破産が認められた時点で借金生活が終了する反面、大きなメリットを与えるに相応しい債務者かを審理するため、裁判所では慎重に手続きが進められます。
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