債務整理 弁護士コラム
個人再生手続は、自己破産とは異なり財産処分による債権者への返済(配当実施)を前提とせずに多額の借金を解決できる点に大きな特徴のある手続きです。
しかしながら、高い金額で処分可能な財産がある場合には、手続きにおいて一定の不利益が生じたり、その財産を失ってしまうことがあります。高額な財産を手元に残したままで多額の借金を免除することは債権者との関係で必ずしも公平とはいえませんし、高額な財産には担保が設定されている場合も少なくないからです。
そのため、債務者が自動車を保有している場合には注意が必要です。個人再生を行う際には、その取り扱いが重要なポイントとなります。
まずは、個人再生手続の基本的な仕組みを確認しておきましょう。
個人再生とは、債務者が作成し裁判所の認可を得た借金の分割返済計画(再生計画)を履行し、それを完了させることで分割返済後に残った残額の返済を免責(免除)してもらえる手続きです。
また、この分割返済は、再生計画認可後に債務者が得る収入(毎月の給料等)を引き当て財産として行われることから、自己破産した場合のように個人再生手続のなかで債務者の財産が処分されることはありません。
再生計画で分割返済しなければならない最低額は、次の3つの基準のうちもっとも高い金額となります。
このうち、債務者が保有する自動車は上記の清算価値と関係してきます。清算価値とは、簡単にいえば、自己破産なら債権者の配当に充てられるべき債務者財産の評価総額(差し押さえ可能な財産の評価総額)のことをいいます。
つまり、財産価値の高い自動車(高級外車など)を保有しているケースでは、清算価値の金額が高くなってしまい借金の減額程度が少なくなってしまうこともあるといえるのです。
次に、すでにローンの支払いが終わっている自動車の個人再生における取り扱いについて確認しておきましょう。このケースにおいて押さえておくべきポイントは次の2点です。
ローンの支払いが終わっている車は、個人再生をしても強制処分されることはありません。上でも触れたように、個人再生は財産処分よる債権者への配当を行わない手続だからです。
たとえば、1000万円を超えるような高級乗用車を保有していたとしても、それを売却せずに借金を解決することも不可能ではありません。しかし、このようなケースでは、上でも触れたように「清算価値」という形で個人再生手続に大きな影響を与えることに注意する必要があります。
極端な例を挙げれば、500万円の借金を解決しようとしている人が500万円以上の価値のある自動車を持っていれば、債務超過とはならないため、個人再生はできません。
自動車の評価方法(清算価値の計上方法)は、実勢の評価額がベースとなります(通常は、専門業者に査定を依頼しその査定書を提出します)。登録から年数も経過している自動車の場合には清算価値が0円に近いケースもあり得ますが、人気車種・希少価値の高い車種・型式などの場合には使用年数を問わずに高額な評価額となってしまうこともないわけでありません。
ローンの残額のある車を持っている人が個人再生する際には、車のローンに所有権留保が設定されているか否かによって車を手元に残せるか否かの結論が変わってきます。
所有権留保とは、ローンを組んで自動車を購入した場合に、その代金が完済されるまでの間の担保として、自動車の所有権を債権者(ディーラー)の手元に留め置くことをいいます。
割賦販売法7条にも「指定商品の所有権は賦払金の全部の支払の義務が履行されるときまでは、割賦販売業者に留保されたものと推定される」との規定があります。
そのため、所有権留保が設定されている自動車のある人が個人再生した場合には、担保権者(通常は、自動車販売店に委託されたローン会社)によって自動車が引き上げられてしまうことになります(自動車ローン債権者による別除権行使)。
なお、車が引き上げられる時期は、ローンの債権者が弁護士からの受任通知を受領した後の任意のタイミングとなりますが、ほとんどケースですぐに車を引き上げられてしまいます。
自らが購入した自動車に所有権留保が設定されているかどうかは、車検証を見ることですぐに確認できます。所有権留保が設定されている場合には、車検証の所有者名義人が購入者ではなく自動車販売店の名義になっているからです。
銀行で自動車ローン(目的別ローン)を組んで自動車を購入した場合には、所有権留保の設定がないことが一般的です。
この場合であれば、個人再生をした場合でも自動車を失うことなく借金(ローン残高)の免除を受けることができます。債権者である銀行は担保権を有していないので、再生計画に従った分割返済しか受けることができないからです。
ただし、この場合には保有する自動車の評価額によっては、前述の通り清算価値の計上額に影響を与え、そもそも個人再生ができない場合があることに注意しておく必要があります。
最近では、カーリースを利用して自家用の自動車を保有(利用)する人も増えています。自動車リースの契約は、「残価設定型のリース契約」となっているのが一般的です。残価設定側のリース契約というのは、簡単にいえば契約期間中に支払うリース料金では、自動車の購入費用などの全額を支払いきれない(残額が出る)形式のリース契約のことです。
そのため、リース契約満了後に、その自動車を取得するためには残額の支払いをする必要があります(これに対して、リース料金ですべての費用を支払いきれる場合のリース契約をフルペイアウト型リース契約とよんでいます)。
一般的なカーリース契約の場合には、個人再生するとリース契約が解約され、車もリース会社によって引き上げられてしまう内容になっています。
以上のように、個人再生をした場合の車の取り扱いは、ローン残高の有無やローンによる所有権留保の有無によって決まることになります。
自動車購入の際には、銀行のカーローンよりもディーラーの紹介などによってローンを組むケースの方が多いといえますので、ローン残高のある状態で個人再生をすると所有権留保に基づく担保権が行使されて車を手放さざるを得ないケースが多いといえます。
このような状況を回避するためには、以下の3つの対応をとることが考えられます。
債権者による別除権行使(所有権留保による自動車の引き上げ)を回避するためには、ローンの残額を完済するのがもっとも確実な方法です。
しかし、個人再生申立て直前にカーローンだけを完済する行為は、結果的にひとりの債権者にのみ返済する形となるため、個人再生を行う際に重要視される「債権者の平等」に反する、偏頗弁済(へんぱべんさい)と呼ばれる詐害行為に当たる可能性が高いと考えられます。
偏頗弁済に該当する行為があった場合には、その金額を清算価値に上乗せして計上しなければなりません。したがって、ローン残高やそのほかの資産状況によっては、借金減額の程度に大きな影響を与えてしまうことがあるでしょう。
また、そもそも、個人再生を検討するケースでは、ローン残高を完済できるだけの資力がない場合も多いと考えられます。そのため、実際には、家族や親戚の方などに代わりに支払ってもらうケースも少なくありません(この方法であれば、偏頗弁済にもならないため清算価値への影響も発生しません)。
2つ目の対応は、ローン会社と「別除権協定」を結ぶ方法です。
別除権協定とは、担保権者(別除権者:ローン会社)との間でローンをこれからもきちんと支払うことを約束する代わりに車を引き上げないようにしてもらう個別の協定のことです。
ただし、個人再生をする債務者が特定の債権者と別除権協定を結ぶことは、他の債権者との公平を損なうことにもなるので、裁判所の許可が必要となります。別除権協定を裁判所が認めるのは、車の継続使用を認めないと債務者の収入がなくなり個人再生(負債の分割返済)ができなくなってしまうほどの影響があるときのように、債権者の全体の利益を害するようなケースに限られるので注意が必要です。
具体的には、個人タクシーや個人の運送業者などで、自分の車を仕事に使っている場合が別除権協定を認めてもらいやすい例となります。
なお、通勤に車を使っているにすぎないという場合には、お住まいの地域における公共交通機関の便が相当に悪い(車を使わないと本当に生活できない)というようなケース以外では、別除権協定を認めてもらえないケースが多いといえます。
ローンが残っている車を手元に残して借金を解決する3つ目の方法は、自動車のローンを除外する形で他の借金を任意整理する方法です。
個別の債権者との自由な話し合いである任意整理であれば、個人再生のように「すべての借金」を対象とする必要性もないため、都合の悪い借金については「任意整理せずにそのまま返済を続ける」という選択をすることも不可能ではありません。
しかし、任意整理で借金を解決する場合には、個人再生をした場合のように借金の元金についての減額を認めてもらえない(今後の利息の免除のみ)ので、自動車ローン以外の借金の残額・件数によっては、この方法を選択できないこともあります。
個人再生は、財産を強制処分することなく多額の借金を解決することができる点に大きな特徴のある手続きです。しかし、ローンが残っている車を持っている方が個人再生した場合には、債権者によって車を引き上げられてしまう可能性が高いといえます。
このような状況を避けるためには、親族などによる第三者弁済や債権者との別除権協定締結などの方法が考えられますが、弁護士に早期にご相談・ご依頼いただいた方が車を残すための選択肢やその可能性も高くなるでしょう。
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多額の借金を抱えた場合、個人再生ができれば自己破産をすることなく、借金問題を解決することが可能です。ただし、奨学金を個人再生する場合には、いくつかの注意点があります。
本コラムでは、個人再生をするときの奨学金の返済義務や、連帯保証人・保証人に及ぶ影響、個人再生が失敗するケースなどについて、ベリーベスト法律事務所 債務整理専門チームの弁護士が解説します。
借金があるのに収入が大幅に減ってしまい、毎月のローン返済が本当に苦しい……。持ち家は手放したくないけど借金を減らしてもらいたい……。
このようなお悩みをお持ちの方は、個人再生を選択することによって借金問題を解決できる可能性があります。
個人再生を裁判所に認めてもらえれば、借金を今の残高からおよそ5分の1にまで減らしてもらうことができるのです。
この記事では、個人再生とはどういうものなのか? について簡単にわかりやすく解説します。
個人再生は借金の返済額を大幅に減らすことが可能な債務整理の方法です。ただ、自己破産のように返済額がゼロになるわけではなく、減額後の借金を継続的に返済していく必要があります。
個人再生では「最低弁済額」というものが法律で定められており、事案の内容によっては返済額があまり減らない可能性もあるので注意が必要です。
本コラムでは、最低弁済額の内容、その金額を決める基準、最低弁済額を払えないときの対処法について解説します。