債務整理 弁護士コラム
債務整理は、返済できなくなった借金を解決するために行う手続きですから、失敗は絶対に避けたいものです。
しかし、債務整理を検討している債務者の人にとっては、分からないこともたくさんあるため、「私のケースは本当に大丈夫なのだろうか?」と不安に感じることもあるでしょう。
特に、個人再生の手続きは、その成否によってマイホームの行方が決まることもあるので、「何が何でも成功してくれないと困る」と考えるケースが多いのではないかと思います。
個人再生が失敗してしまう原因はいくつかありますが、その中でも最も可能性が高いのは「再生計画の不認可」です。
そこで、今回は、個人再生が不認可となってしまう原因や、不認可を回避するために知っておくべきポイントなどについて解説していきます。
個人再生が失敗してしまうケースは、大きく分けて、
の3つの場合があります。
実際にはそれほど多くありませんが、申し立てをしても個人再生の手続きすら始めてもらえないという場合があります。
個人再生の申し立てが却下(いわゆる門前払い)、棄却(要件不備)とされる理由としては、
を挙げることができます。
個人再生の手続きが開始された場合であっても、その後の手続きでの対応に問題があれば、裁判所の判断で、手続きが途中で打ち切られる(手続きの廃止)となる場合があります。
個人再生の廃止事由としては、
があります。
①財産目録の不実記載・不正記載
個人再生では、債務者が所有している財産の程度によって、免除される借金の金額が変わります。
たとえば、自己破産した場合には債権者に一括で300万円配当できるケースであるにも関わらずに、個人再生では分割で100万円しか配当されないというのでは、債権者に対して公平な手続きとはいえないからです。
その意味で、財産の処分を必要としていない個人再生手続きにおいても、債務者の提出する財産目録は非常に重要な書類となり、虚偽の財産目録を提出したことは、手続き廃止の理由となります。
②提出期限までに再生計画案が提出されなかった場合
個人再生手続きにおいては、債務の返済計画(再生計画)を債務者自らが作成し裁判所に提出しなければなりません。
再生計画の提出が、提出期限に間に合わなかったとき(1日でも遅れたとき)には、裁判所は必ず手続きを廃止しなければならないことになっています。
③提出された再生計画に大きな問題があるとき
債務者から再生計画(案)が提出された場合でも、その内容に大きな問題があり、不備を補正することもできないと裁判所が判断した場合には、再生手続きは廃止となってしまいます。
④債権者の書面決議で否決されたとき
廃止事由のうち最も重要なのは「債権者による書面決議」です。
個人再生のうちの「小規模個人再生」では、再生計画は、債権者の可決(消極的同意)なしに認可することはできません。
債権者に可決されるためには、書面決議において、「債権者のうちの過半数が再生計画に「反対しておらず」、かつ「反対の議決権の額が議決権の総額の1/2を超えていない」という条件を満たす必要があります。
つまり、筆頭債権者が有する債権額が全体の5割を超えているときには、他の債権者全員が再生計画案に反対していないとしても、一人の債権者の反対をもって「否決」となってしまいます。
書面決議で否決されてしまえば、再生計画を認可することができないため、手続きは廃止せざるを得ないというわけです。
なお、個人再生のうち「給与所得者等再生」のときには、債権者による書面決議は必要的ではありません。
債務者の提出した再生計画案が、債権者による書面決議で可決されたとしても、その再生計画に問題がある場合などには、「再生計画が不認可」となり個人再生は失敗してしまいます。
再生計画が不認可・認可取消しとなる場合については、次の「2」(3)で詳しく解説します。
個人再生が失敗してしまうケースはどれくらいあるのか? ということについては、裁判所が公表している「司法統計」で確認することができます。
総数 | 再生手続廃止 | 再生計画不認可 | 再生計画取消し | 再生手続き終結 (再生計画認可) |
棄却又は却下 | 取下げ | その他 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
小規模個人再生 | 11948 | 337 | 26 | - | 11172 | 20 | 370 | 23 |
給与所得者等再生 | 764 | 13 | - | - | 698 | 9 | 39 | 5 |
※引用:令和2年裁判所司法統計第109表より
この数値を前提にすれば、個人再生が失敗するケースというのは、申し立て全体の約6%強(再生手続き廃止、再生計画不認可、取下げ、棄却又は却下、その他)に過ぎないということになります。
この点は、実際の個人再生の申し立てのほとんどが弁護士に依頼して行われていることにも大きく関係しています。
個人再生による借金の減免の効果は、(自己破産における免責と同じように)手続きを申し立てたり、開始されただけでは生じません。
個人再生による借金減免(権利変更)の効果は、裁判所による再生計画の認可決定が確定して初めて生じるものです。
したがって、再生計画が「不認可」となってしまったときには、個人再生をしても借金の減免を受けることはできません。
再生計画が認可されないケースは、すでに触れた書面決議で否決された場合のほかには、
に大別することができます。
個人再生は、債務整理の中で最も複雑な手続きです。
裁判所に提出しなければならない書類も最も多いため、弁護士に依頼せずに、債務者自身で手続きを行った場合には、書類不備などが原因で、手続き的な不利益を受けてしまうことも十分に考えられます。
また、不正な方法で再生計画案が可決された場合にも当然不認可となります。
どんなに優れた再生計画を提出したとしても、それを「履行できるだけの資力がない」と裁判所が判断した場合には、再生計画は不認可となってしまいます。
たとえば、
には、裁判所が「再生計画の遂行は不可能」と判断する可能性が高いといえます。
再生計画の内容に問題がある場合の典型は、「再生計画で返済すると定めた金額が少なすぎる場合」が挙げられます。
再生計画で定める計画返済の総額は、次に示すすべての基準額を超えるの金額となっていなければなりません。
清算価値とは、個人再生の時点で自己破産をした場合に債権者に配当することが見込まれる金額のことをいいます。
個人再生による返済額が自己破産した場合よりも少ないのであれば、債権者の権利を小さくする(負債を免除する)ことの正当性がなくなってしまうからです。
このことを条文では「債権者の一般の利益に反する」と表現しています。
次の最低弁済基準額は、民事再生法が次のように定めている負債額ごとの返済基準額です。
最後の法定可処分所得の2年分という基準額は、給与所得者等再生を選択した場合にのみ適用される基準です。
可処分所得の算出方法は予め民事再生法に定められていますので、実際の可処分所得とは異なる金額になることに注意する必要があります。
再生計画に基づいて返済される総額は、これら3つの基準のすべてを超える金額でなければなりません。
たとえば、負債総額が400万円であるときには、最低弁済基準額は100万円となりますが、清算価値が200万円、法定可処分所得の2年分が250万円であるときには、
小規模個人再生であれば、200万円以上
給与所得者等再生であれば、250万円以上
を返済する再生計画を定めなければならないというわけです。
また、上のケースで、200万円の再生計画を小規模個人再生に提出したとしても、債権者に否決されてしまえば、再生計画は認められないということになります。
他方で、返済額を増やしすぎれば、債権者には可決してもらいやすくなりますが、再生計画の遂行可能性が問題視されるリスクが高くなるわけです。
その意味では、それぞれのケースにとって最も妥当な再生計画案を作るには、債務整理についての豊富な知識と経験が必須といえます。
再生計画の認可が確定した場合であっても、
には、再生計画の認可は取り消されてしまいます。
何かしらの事情で再生計画の履行(毎月の返済)が難しくなったときには、「再生計画の変更(リスケジュール)」で対応するのが基本です。
再生計画の変更が認められれば、再生計画の期間(分割返済の期間)を最大で2年延長することができます。
また、再生計画の完遂まであと僅かというところで、やむを得ない事情(病気で就労できなくなった)で残りの履行ができなくなったという場合には、残りの返済を免除してもらえる場合もあります(ハードシップ免責)。
ただし、ハードシップ免責が認められるのは、本当に限られたケースのみに限られます。
再生計画が不認可・取消しになったときには、借金がどうなってしまうかについても確認しておきましょう。
再生計画が不認可となった場合には、個人再生手続きの開始によって生じた法的な効果(差押えの停止など)は消滅し、借金は個人再生申し立て前の状態に戻ってしまいます。
認可決定が事後に取り消された場合も、不認可の場合と同様に、再生計画で認められた権利変更(借金減免)の効果も当然消滅し、個人再生前の状態に戻ってしまいます。
再生計画が不認可となって個人再生に失敗した場合には、次の2つの方法で対処することが一般的です。
①個人再生を再度申し立てる
個人再生(再生計画)を不認可とする決定は、通常の裁判の判決のように「一事不再理」ということはありません。
したがって、不認可となった場合でも、再度個人再生を申し立てることは可能です。
とはいえ、すでに不認可となっているのですから、「転職して収入が増えた」、「計画返済総額を見直した」といった不認可となった原因を克服できるだけの事情を整えられなければ、再度の申し立てをしても「また不認可」となる可能性が高いでしょう。
②他の債務整理を利用して解決する
再生計画が不認可となった原因を克服できない場合には、個人再生以外の方法で借金を解決することを検討する必要があります。
この場合には、「自己破産」の申し立てを検討することが一般的です。
個人再生の申し立てを検討する場合の多くは、「任意整理では借金を解決できない」事情を抱えている場合が多いからです。
個人再生不認可後に、任意整理を行うことも決して不可能というわけではありませんが、任意整理では元金を免除してもらうことは難しいですから、その分だけ「債権者へ返済しなければならない金額」が多くなります。
個人再生が不認可とならないためのポイントは、
の2点です。
個人再生は、建前としては、債務者本人が弁護士に依頼しなくても手続きを行うことができるものです。
しかし、上でも述べたように、個人再生手続きは、債務整理の中で最も複雑で、提出書類の多い手続きです。
弁護士費用を節約したいという気持ちはわかるのですが、書類を正しく作成できないことで、再生計画が不認可となっては意味がありません。
また、民事再生を成功せるためには、不備がないだけでなく「現実的でかつ債権者も納得できる再生計画」を作成することが必要となります。
債務者側の都合だけで再生計画を作成すれば、書面決議で否決される可能性も高くなってしまうからです。
誰もが納得できる再生計画を作成するには、専門家関与の上で、十分な期間をかける必要があるでしょう。
多額の借金返済が難しいと感じたときには、できるだけ早い時期に弁護士に相談されることをおすすめします。
個人再生が不認可とならないためには、
ことが必須となります。
これらの条件をきちんと満たすには、やはり個人再生に詳しい弁護士のサポートが必須といえるでしょう。
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このようなお悩みをお持ちの方は、個人再生を選択することによって借金問題を解決できる可能性があります。
個人再生を裁判所に認めてもらえれば、借金を今の残高からおよそ5分の1にまで減らしてもらうことができるのです。
この記事では、個人再生とはどういうものなのか? について簡単にわかりやすく解説します。
個人再生は借金の返済額を大幅に減らすことが可能な債務整理の方法です。ただ、自己破産のように返済額がゼロになるわけではなく、減額後の借金を継続的に返済していく必要があります。
個人再生では「最低弁済額」というものが法律で定められており、事案の内容によっては返済額があまり減らない可能性もあるので注意が必要です。
本コラムでは、最低弁済額の内容、その金額を決める基準、最低弁済額を払えないときの対処法について解説します。
個人再生とは、基本的に財産を処分することなく、借金を大幅に減額できる債務整理の方法です。
個人再生の大きなメリットのひとつとして、「住宅ローン特則(住宅資金特別条項)」があります。これは、一定の条件を満たしていることで、自宅を維持しながら借金を整理できる制度です。
本コラムでは、個人再生の住宅ローン特則の内容や利用条件、特則を使えないときの対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。