債務整理 弁護士コラム
借金を返済しないまま長期間が経過すると時効が成立し、支払い義務がなくなることがあります。ただし、自動的に支払い義務が消滅するわけではなく、「時効の援用」を行うことが必要です。
その方法としては「時効援用通知書」を債権者側に対し、送付することが一般的ですが、書き方が分かっていなければ、相手に送れません。自分なりに書面を作成し、その後送付したとても、不足がない十分な内容でなければ時効援用の効果が生じず、債権者から請求されることになりかねません。
本記事では、「時効の援用」について解説した上で、その手続きを弁護士に依頼するメリットもご紹介します。
時効の援用とは、成立した時効の利益を享受するという意思表示を行うことです。
以下で、分かりやすくご説明します。
民法上、債権は一定の期間が経過すると時効によって「消滅する」と定められています(同法第166条1項)。その一方で、当事者が時効を援用しない限り、裁判所が時効成立を認めることはできないともされています(同法第145条)。
そのため、借金の消滅時効が成立しても、債務者のほうで時効を援用しなければ決して支払い義務は消滅せず、債権者は返済を請求することが可能です。
時効の援用という制度が設けられている理由は、時効の利益を受けることが当事者の良心に反することもあり得るため、利益を享受するかどうかを当事者が自由な意思で判断すべきであると考えられているからです。
なお、借金の消滅時効期間は、次のうち、どちらか早い方です(同法第166条1項)。
ただし、親戚や友人など個人からの借金について、令和2年3月31日までに債権者が権利を行使できる状態になっていた場合は、当時の民法の規定が適用されるため、権利を行使できるときから10年が経過しないと消滅時効が成立しません。
貸金業者から借り入れたお金の消滅時効が成立したとき、通常は「もう支払いたくない」と考えることでしょう。そこで、債務者が「支払い義務が消滅する」という時効の利益を享受する旨の意思表示をすると、借金の支払い義務が確定的に消滅することになります。
つまり、債務者から債権者に対して、「この借金については時効が成立したので、もう返済しません」という意思を伝えることが時効の援用に当たります。
時効援用の方式について特に決まりはなく、法律上は口頭での意思表示でも有効とされています。
しかし、口頭で「もう支払いません」と伝えただけでは証拠が残らないため、その後も債権者から請求される可能性があります。また、口頭でのやりとりの中で債務を承認する内容の発言をすると、時効が更新され、時効の援用ができなくなってしまうおそれもあります。
時効の更新とは、それまでに進行していた時効期間がリセットされることです。そのときから改めて5年または10年の時効期間が経過するまで、時効は成立しません。
このような事態を防止するために、時効の援用をするときは書面を送付することによって明確に意思表示をするとともに、時効の援用をした事実を証拠化することが重要です。そのために作成・送付する書面のことを「時効援用通知書」といいます。
時効援用通知書の書き方には、特に指定の決まりはありません。しかし、必要な事項を漏れなく正確に記載することが重要です。かつ、時効の援用をした事実を証拠化するための送り方も重要となります。
時効援用通知書には、以下の事項を記載する必要があります。記載事項が不足していたり、記載内容が漠然としていたりするような場合は時効援用の効果が生じないこともあるので、注意しましょう。
時効援用通知書が完成したら、普通郵便ではなく内容証明郵便で送ることが重要になります。
内容証明郵便とは、誰が、誰宛てに、いつ、どのような内容の文書を送ったのかを郵便局が公的に証明してくれる郵便のことです。
これを利用する際には、債権者のほうで時効援用通知書を受け取ったという事実とその時期を証明するために、配達証明のオプションも付けるべきです。配達証明付内容証明郵便で時効援用通知書を郵送することによって、時効援用したということを証拠化できます。
内容証明郵便を送付するには、同じ内容を書き記した時効援用通知書を3部作成し、郵便局に持参します。そのうち1部が債権者側に送付され、1部は郵便局で保管、残りの1部は差出人の控えとなります。
内容証明郵便の書式は、1枚当たりの行数と1行当たりの文字数に細かな決まりがあります。不備があると受け付けられないので、慎重に記載することが必要です。
配達証明付内容証明郵便にかかる費用は、基本料金(普通郵便にかかる費用)に1195円が加算されます。書面が2枚以上となる場合は、2枚目から1枚につき260円がさらに必要です。速達のオプションは付ける必要はありませんが、付ける場合は260円が加算されます。
時効の援用を弁護士に依頼すれば、時効援用通知書の作成・送付から債権者への対応まで、すべて弁護士が代わりに行ってくれます。それによって、以下のメリットが得られます。
債務者自身が「5年経過した」と思っていたとしても、法律上は時効が成立していないことがあります。
たとえば、最後に返済したときから5年が経過していても、その後に追加で借り入れをしていると、そのときから5年間は時効が成立しません。また、時効成立前に債権者から催告状や督促状が届いていれば、そのときから6か月間は時効が成立しません(民法第150条1項)。
時効が成立していないにもかかわらず時効援用通知書を送付すると、債権者から請求を受け、その際に債務の承認をしてしまう可能性があります。いったん承認をすると、そのときから5年間は時効の援用ができなくなります(同法第152条1項)。
弁護士に相談すれば、時効が成立しているかを正しく確認してもらえるので、このような心配は不要です。
時効が成立していて、時効援用通知書を相手側に送付したとしても、形式に何かしらの不備があると時効援用の効果が生じないことがあります。
たとえば個人で通知書を作成して郵送したとしても、債権を特定する記載が不足している、時効を援用する旨が記されていない、内容証明郵便ではなく普通郵便で送ってしまった、などの不備が生じがちです。
内容に不足な点がない時効援用通知書を受け取ったにもかかわらず請求してくる債権者はほとんどいませんが、不備がある内容だと債権者から請求を受ける可能性が十分にあります。
弁護士に依頼することによって、このような形式の不備による失敗を回避することができます。
時効成立後でも、債権者からの請求を受けて1円でも返済したり、支払う旨の発言をしたりすると債務を「承認」したことになり、時効の援用ができなくなります。
必要なものがすべて書き記されている時効援用通知書を郵送した際も、債権者が債務者に「承認」をさせようとしてくることがあります。特に、時効援用通知書送付の後は、債権者から連絡がないため、債務者の方から確認の連絡をした際のやりとりにおいて、この危険性が高くなります。
債権者への対応まで弁護士に任せておけば、債務を承認してしまうという事態を回避できます。
時効の援用を弁護士に依頼するためには、費用がかかります。具体的な金額は法律事務所によって異なりますが、債権者1社につき3万~5万円程度(税別)が平均的です。
費用の負担はありますが、時効の援用に失敗すると多額の借金の返済を請求されてしまうので、弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。
多額の借金を抱えていても、消滅時効が成立するとその支払いを免れることが可能です。しかし、時効の援用をするまでは、債権者の請求権はまだ消滅していません。
時効の援用手続きは債務整理の手続きほど複雑なものではありませんが、専門的な知識と経験がなければ失敗する可能性もあります。そのため、時効を援用するなら弁護士に依頼した方が得策です。
ベリーベスト法律事務所では、借金問題に関するご相談は何度でも無料でご利用いただけます。時効援用通知書の作成・送付も承っておりますので、借金の時効や正しい時効援用通知書内容など、気になることがある方はお気軽にお問い合わせください。
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