債務整理 弁護士コラム
個人事業主や自営業者は、法人に比べ財務基盤などが脆弱なケースが少なくありません。そのため、外的な事情変化によって事業の継続それ自体が危ぶまれてしまうこともあるでしょう。昨今では、コロナ禍の影響などで、順調だった事業が一気に傾いてしまったというケースもあるのではないでしょうか。
事業不振などが原因で多額の負債を抱えてしまった場合には、自己破産によって負債を解決することができます。しかし、個人事業主・自営業者の方の自己破産は、サラリーマンなどの非事業者の方の場合に比べて手続きが複雑です。また、自己破産ともなれば、今後の事業継続や再チャレンジへの影響が心配という人もいるでしょう。
そこで、今回は、個人事業主や自営業者の方の自己破産手続きにおける注意点や今後の事業継続への影響などについて解説していきます。
自己破産の手続きには、同時廃止事件・管財事件の2つの進め方があります。同時廃止事件は、申立人に破産手続きの費用を賄えるほどの財産がない場合に用いられる進め方で、破産手続きの開始と同時に手続きを終了させることになるため、手続きも早く終わり、破産管財人が選任されない分だけ費用も安く済ますことができます。そのため、自己破産を考えている方には同時廃止事件で手続きを進めることを希望される方が多いと思われます。
しかし、個人事業主や自営業者の自己破産手続きでは、申立人の財産の程度を問わずに管財事件となる場合の方が少なくありません。
管財事件とは、申し立てられた破産手続きについて、破産管財人を選任して進めていく手続きのやり方のことをいいます。申立人債務者の財産を換価(売却)し、債権者への配当を行う場合が通常の管財事件の進め方となります(いわゆる清算型の管財事件)。しかし、次のような事情がある場合には、申立人(破産者)の財産の程度を問わず、破産管財人を選任し管財事件として取り扱うことになっています。
個人事業主・自営業者の自己破産では、多数の取引先との関係などもあることが多く、負債・財産の調査を慎重に行う必要性があるために、法人の自己破産に準じて裁判所に申告された財産の程度を問わず管財事件として取り扱われることになるというわけです。
申し立てた破産手続きが管財事件となった場合には、同時廃止となる場合と比べて次の点で申立人(破産者)の負担が大きくなる点に注意する必要があります。
①費用負担
管財事件となった場合には破産管財人が選任されるために、その報酬を負担しなければなりません。破産管財人報酬の額は裁判所ごとによって金額が異なりますが、一般的には50万円前後に設定されています(債務者の本人申し立ての場合)。
②財産の処分
破産手続きは、債務者の負債と財産を裁判所(破産管財人)の下で強制的に清算するための手続きでもあります。債務者自身は、処分の対象となる財産がないと認識をしている場合であっても、破産管財人の調査によって一定の財産が処分の対象となることも考えられます。
③転居の制限
自己破産が管財事件となった場合には、破産手続きの円滑な実施や財産の散逸(隠匿)などを防止する目的で、破産者が居所を離れる際(転居・長期間の旅行)には裁判所の許可が必要となります。
ただし、この制限は、あくまでも上記の目的を達するためであり、自己破産したことへの罰則・ペナルティを目的としたものではありません。したがって、業務での出張や正当な理由のある旅行などが不許可となるようなことはありません。
④郵便物の回送
自己破産が管財事件となった場合には③と同様の目的(特に財産の隠匿防止)のために、破産者宛ての郵便物が破産管財人に回送され内容を確認されます。
自己破産した場合には、財産価値が一定額以上(20万円が目安)の財産は、法律などで差押禁止となっているものや、裁判所が自由財産として認めたもの以外は、換価処分の対象となってしまいます。
そのため、個人事業主・自営業者の自宅は、事務所・店舗兼用の場合であっても、原則として換価の対象となってしまいます。そのため、いまの場所での営業でなければならないといった事業(飲食店など)の場合には、自己破産によって事業の継続が困難となることも考えられます。
個人事業主・自営業者の自己破産では、これまでの事業に関すること、今後の事業継続の可能性に関連した悩みや不安も多いと思われます。
気にしておきたいポイントについて、詳細を確認していきましょう。
個人事業主・自営業者が自己破産する場合には、事業絡みの負債が原因となっている場合が大半といえます。これらの事業目的での負債は、カードローンなどの一般的な借金とは異なり連帯保証人が設定されている場合も少なくありません。
この場合、主たる債務者が自己破産した場合には、通常は、債権者は連帯保証人に負債残額の一括返済を求めることになります。したがって、自己破産をする際には、連帯保証人とも事前に相談・協議の上で、連帯保証人も同時に自己破産をするなどの措置が必要となる場合も珍しくありません。
従業員を抱える事業者が未払い賃金を残したまま自己破産した場合には、その未払い賃金は原則として非免責債権として取り扱われ、自己破産をしても返済義務は免除されません。
個人事業主・自営業者の場合には、自身の家族(配偶者や子など)を従業員にしている場合も多いといえますが、従業員が家族であるときにも、上の原則はそのまま適用されることになります。
しかし、家族への賃金支払いについては、通常のケースよりも裁判所のチェックが厳しくなる点に注意する必要があります。労働実態がない形だけの雇用であった場合や、労働の対価としては不相当に高額な給料を支払っているような場合には、財産隠しとみなされてしまう可能性がないわけではありません。
自己破産において財産隠しは、悪質で不誠実な行為として大きな問題となってしまいます。そのため、自己破産をしても免責不許可となってしまう可能性が高くなるだけでなく、犯罪に問われることもありますので、絶対にすべきではありません。
自己破産を検討するほとんどの人にとって「手元に残る財産の程度」は大きな関心事だと思われます。実際にも「自己破産をすれば無一文になってしまうかもしれない」という不安をもっている方も少なくありません。
しかし、自己破産をした場合でも、以下の財産については、今後の生活のために手元に残しておくことが認められています。
したがって、個人事業主・自営業者の場合には、自らの事業に必要なパソコンや備品などについても処分を免れられる可能性がないわけではありません。ただし、破産管財人(裁判所)と破産者との間で、必要性の程度について認識の違いが生じうるということには注意しておく必要があるでしょう。
また、取引先や顧客などの売掛金や商品在庫なども、原則として自己破産手続きの中で回収され債権者への配当に充てられることになります。
個人事業主・自営業者の自己破産においては、現在の事業を自己破産後も継続できるかどうかが最大の関心事となることも多いといえます。
自己破産後の事業継続可能性は、それぞれのケースが抱えるに事情によって大きく異なるといえますが、以下の点を基準に判断することが有効といえます。
①事業収益の見通し
個人事業主・自営業者が自己破産する場合には、自らの事業の収益それ自体が悪化したことが原因となっている場合も多いといえます。たとえば、収益悪化が慢性化していたことが原因で多額の借金を抱えてしまったようなケースでは、その事業を継続したとしても同じことの繰り返しになってしまう可能性も高いといえます。
一方で、昨今のコロナ禍のケースのように収益悪化が外的かつ一時的な要因によるものであるときには、自己破産して負債を免除してもらうことが、再チャレンジ・リスタートの環境を整えることに役立つ場合も多いといえるでしょう。
②運転資金の工面
個人事業主・自営業者の自己破産は、事業不振による資金繰りの悪化を原因とする場合が多いといえます。したがって、事業継続に必要な運転資金の工面・確保の見通しがとても重要となります。仕入れが必要な事業であればその代金、従業員が必要な事業ではその賃金を工面できなければ、そもそも事業を続けることはできないからです。
この点、自己破産後は、銀行など金融機関からの融資を受けられる可能性がかなり低くなってしまう(事実上不可能になる)点に注意する必要があるでしょう。
③事務所・店舗の確保
上でもすでに解説したように、自己破産した場合には、自宅・事務所・店舗などを所有している場合には換価処分の対象となるのが原則です。したがって、個別の事務所・店舗などが必要な事業の場合には、新たに賃貸物件を契約するなどの対応が必要となり、そのための保証金などを工面しなければならなくなります。
また、事務所・店舗を借りている場合には、これらの契約は自己破産によって解約となってしまうことにも注意しておかねばなりません。
④リース物品の取り扱い
事業者は事業に必要な設備や、店舗・事務所備品をリースによってまかなっている場合も多いといえます。自己破産した場合には、これらのリース契約は解約となりリース品もリース会社によって引き上げられてしまいます。
⑤取引先の確保
事業を継続する上では、取引先の確保は必須といえます。自己破産したことによって仕入れ先や納品先との関係が悪化してしまえば、今後の事業継続が行き詰まってしまうことも多いといえます。
特に、売掛金や買掛金などのある取引先があるときには、自己破産手続きとの関係で一定の影響が出ることになりますので、事業継続や再チャレンジを考えている場合には、しっかりとした対応をとることが大切になるでしょう。
⑥事業そのものが換価されてしまう可能性
事業者が自己破産した場合には、その事業やのれんなどが換価処分の対象となる場合があります。この場合には、事業それ自体を存続させることは可能ですが、そのイニシアチブは事業の買い手が握る場合が多いといえるでしょう。
個人事業主・自営業者の自己破産で事業が換価(譲渡)されることはまれといえますが、継続可能性の高い事業である場合ほど、換価対象となる可能性も高いといえますので注意が必要です。
借金などのお金の悩みは、どうしても他人には相談しづらいものです。また、事業を手がけている場合には、自分の事業をなんとか存続させたいと、さまざまな対応を講じたがために、弁護士に相談する時期が遅くなってしまうことも少なくありません。
しかし、事業が行き詰まりを感じた場合、資金繰りが苦しくなった場合には、できるだけ早い時期のうちに弁護士に相談しておくべきといます。
返済が苦しくなった負債を解決するための債務整理には、自己破産以外にも、任意整理・個人再生(民事再生)といった方法があり、むしろ自己破産は他の方法では負債を解決できない場合に選択する最終的な手続きといえます。
任意整理や個人再生で負債を解決できるのであれば、担保権の設定されている財産を除き、財産が処分されることもありませんので、自宅や事務所・店舗や、事業継続に必要な設備を失う可能性はかなり低くなるといえますし、これらの方法で有利子(高利)の負債を圧縮したことで事業継続の可能性が高くなることがあります。
しかし、任意整理・個人再生は、抱えている負債を一定程度以上分割で返済しなければなりませんので、負債額が大きくなりすぎた場合や、資金繰りが完全に行き詰まってしまってからでは対応することができません。
もはや自己破産しか選択肢がないという状況であっても、弁護士への相談や依頼は早いほうがよい場合が多いといえます。
たとえば、弁護士に自己破産を依頼すれば、自己破産手続きにかかる費用を安くできる可能性があります。弁護士によって自己破産の申し立てがなされたケースであれば、予納金(引継予納金:破産管財人報酬)を安くしてもらえることがあるからです。
たとえば、東京地方裁判所などの場合であれば、自己破産を本人申立てした場合の予納金は50万円(以上)となりますが、弁護士申し立てによって少額管財を利用できた場合には20万円(以上)まで減額された上に、分納も可能となりますので、自己破産するための費用負担はかなり軽くなるといえます(ただし、東京地方裁判所以外の裁判所では予納金は一括納付となっているところが圧倒的多数です)。
個人事業主・自営業者の自己破産は、非事業者の自己破産の場合に比べて複雑な場合が多いといえます。そのため、自己破産手続きは原則として管財事件として処理されることから、債務者の本人申し立てでは費用負担がネックとなるケースも少なくありません。
弁護士にご依頼いただければ、少額管財により費用負担を軽くすることができるだけでなく、書類作成や裁判所・破産管財人との対応によって生じる負担が減少し、自由財産の拡張や同時廃止の可能性といった面でも大きなメリットがあります。
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借金問題は、誰にでも降りかかる可能性のあるトラブルのひとつです。夫婦が同時に多額の借金を抱えてしまうことも、珍しくありません。
夫婦とはいえ、金銭的な話をしていなかったことで、配偶者の借金に全く気付いていなかったというケースもしばしば見受けられます。
夫婦で多額の借金があると発覚してから、自己破産などの債務整理を検討している方もいるでしょう。借金は生活に関わってくる問題であるため、早期に正しく対応することが特に重要です。
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最近では、共働き夫婦の増加により、お互いの財布事情に関知しない夫婦も珍しくありません。
そのため、妻に借金があることに気づいたときには、借金の額が手に負えないくらい膨らんでいて「自己破産以外に解決方法がない」と追い詰められてしまうケースもあります。
しかし同時に、自己破産をすると配偶者である自分や子どもに何かしらの悪影響が出るのではないか、と不安に感じる方もいるでしょう。
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借金返済に完全に行き詰まったときであっても、「どうしても自己破産したくない」と考える方は実は少なくありません。一般の人にとっては、それだけ自己破産に悪いイメージがあるのだと考えられます。
また債務整理というと、自己破産を思い浮かべる人も多いため、債務整理それ自体に抵抗感を覚える人も珍しくありません。
しかし、債務整理の方法は自己破産だけではなく、財産を処分せずに今後の分割払いの負担を軽くしてもらうことで借金を解決するものもあります。
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