債務整理 弁護士コラム

個人事業主が自己破産すると自宅兼事務所・店舗はどうなってしまうのか?

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更新日:2021年01月21日 公開日:2021年01月21日

個人事業主が自己破産すると自宅兼事務所・店舗はどうなってしまうのか?

個人事業主・自営業者の方の中には、自宅の一部を事務所・店舗として利用しているケースも多いと思われます。
自己破産をした場合には、不動産のような価値の高い財産は、原則として差し押さえの対象となってしまいます。
そのため、家だけでなく今後の収入の基盤も失ってしまうことになりかねないことから、自己破産を躊躇してしまう人も多いでしょう。

しかし、早期・適切に対応をすれば、自宅兼店舗・事務所を維持したまま多額の借金を解決できる可能性がないわけではありません。
本コラムでは、個人事業主が自己破産を行うための方法や注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説いたします。

1、破産手続きの基本的な仕組み

まず、自己破産の基本的な仕組みから解説いたします。

  1. (1)債権者への公平な配当

    自己破産というと「返済できなくなった借金を免除してもらうための手続き」というイメージをもっている人が多いと思います。
    たしかに、自己破産をすれば、その後の免責確定によって借金の返済義務を完全に消滅させることができます
    しかし、自己破産の手続きは、借金返済を免除する前提として、すべての債権者に対して公平な配当(返済)を行うことを重要な目的としていることも、忘れるべきではありません。

  2. (2)差し押さえの対象となる財産

    自己破産手続きにおいて債権者への配当は、債務者(破産者)が保有していた財産を換価(売却)して得た金銭を原資にして、行われます。そのため、自己破産を申し立てるときには、申立人(破産する人)が保有している財産の一覧表を作成し裁判所に提出する必要があります。財産隠匿などがある場合には、免責が不許可になる可能性もあるのです。
    そのため、これらの行為は、絶対にしてはなりません。

    なお、自己破産したからといって、すべての財産を強制売却(差し押さえ)されてしまうというわけではありません
    自己破産した場合であっても、以下のような財産については、今後の生活に必要なものとして、換価の対象から除外されるのです。

    • 99万円までの現金
    • 当面の生活に必要な食料
    • 生活に必要となる一般的な家具・家電
    • 印鑑など


    コロナ禍を原因とする自己破産などのケースでは、これらの自由財産がさらに拡張される(手元に残せる財産が増える)可能性もあります。
    そのため、「財産が全部なくなる」とあきらめることなく、まずは弁護士に相談してみましょう。

  3. (3)自営業者の自宅はどうなってしまうのか?

    持ち家のある人が自己破産した場合には、自宅を失うことは避けられない場合がほとんどです。不動産は財産価値が高いために、債権者への配当を行ううえでもっとも重要な原資とみなされるからです。

    また、住宅ローンに残りがある場合には、自己破産の申し立てをしたことにより、ローン債権者によって抵当権が実行されます。そのため、この場合にも自宅は失うことになってしまいます。

    個人事業主(自営業者)の場合には、法律の上では、個人の通常の資産と事業用の資産の区別がありません。
    そのため、家屋のうち事務所・店舗として利用している部分についても、自宅部分と合わせて売却の対象となってしまうのです

2、自営業者の自宅を処分されずに借金を解決できる方法

以上のように、自己破産によって借金を解決しようとする場合には、原則として、自宅(兼事務所・店舗)の処分を回避することができません。例外は、自宅に売却価値が全くない(売却しても費用を差し引けば赤字になる)という場合のみです。

しかし、債務整理の方法は、自己破産に限られません。
自己破産以外の次の方法によって借金を解決できるのであれば、自宅を失わずに借金を解決できる可能性があるのです

  1. (1)任意整理

    任意整理とは、債権者と債務者が直接に話し合いを行うことで、今後の借金返済の条件を債権者に見直してもらい、借金返済の負担を減らす方法です。

    一般的な任意整理では、借金に対して毎月発生する利息を将来にわたって免除してもらい、残った残元金の分割期間を見直すことで、借金返済の負担を軽くするという方法がとられます。

    ①任意整理で解決するのに適した借金
    「借金の支払いが苦しく、自己破産を検討している」という場合には、任意整理によって自己破産せずに借金を解決できる可能性があります
    具体的には、以下のような場合です。

    • 消費者金融・銀行からのカードローン
    • クレジットカードの支払い(キャッシング・リボ払い・分割払い)
    • 利息の高い事業向け無担保ローン


    これらの借金には高い金利が付されているため、任意整理によって将来の利息を完全に免除してもらうことで、返済の負担を大幅に減らせる可能性があるのです。

    ②任意整理に適さない借金
    任意整理は、借金に付される利息の負担を免除(軽減)してもらうことで、借金を返しやすくする仕組みです。
    そのため、次のような借金の解決にはあまり効果がない点に、注意してください。

    • 低金利の借金(国金からの融資など)
    • 担保を提供している借金


    コロナ禍が原因で事業に行き詰まってしまった(コロナ禍が収まれば収益が回復する見込みがある)場合には、低金利の借金であっても、債権者である金融機関と交渉することで、返済のリスケジュール(返済期間の延長)や、元金の一時据え置き(一定期間利息のみの支払いとする)といった対応を認めてもらえる可能性があります
    また、自宅や事務所のローンが残っている場合にも、同様の対応をとれる可能性があるのです。

  2. (2)個人再生手続き(いわゆる住宅ローン特則)

    個人再生手続きとは、任意整理と自己破産の中間的な位置づけにあたる手続きです。
    個人再生が認められれば、借金の一部を3年(から5年)の分割で返済することにより、残金の返済を免除してもらうことができます

    事情によってはかなりの金額の返済免除を受けられる場合がありますので、「自己破産しなければ借金を解決できない」と思ってしまう場合であっても、自己破産せずに借金を解決できる可能性があります。

    個人事業主・自営業者が個人再生する場合の注意点は、下記のとおりです。

    ①自宅兼事務所・店舗に住宅ローン特則を適用できる場合
    住宅ローンが残っている人にとって、個人再生手続きは「自宅を失わずに借金を解決できる可能性がある」という点で、非常にメリットの大きな手続きといえます
    個人再生手続きにいわゆる「住宅ローン特則(住宅資金特別条項)」を適用すれば、個人再生をした場合でも、住宅ローンの残った自宅の抵当権を実行されずに、借金を解決することが可能となります。

    しかし、次の事情に該当するケースでは、個人再生を利用したとしても住宅ローン特則を適用することができない点に、注意してください。

    • 事務所・店舗の占有面積が建物の50%を超えている場合
    • 物件に住宅ローン以外の担保権が設定されている場合
    • 行政機関による滞納処分によって物件が差し押さえられている場合
    • マンション管理費に滞納がある場合


    ②債権者との関係の重要性
    個人事業主や自営業者が個人再生をする場合には、「小規模個人再生」とよばれる方法で手続きをすすめることになります。
    小規模個人再生では、裁判所に個人再生を認可してもらうために、債務者が提出した再生計画案について「債権者の頭数かつ債権額の過半数を超える反対がない」ことが条件となります

    たとえば、総債権額の50%を超えるような大口債権者がいる場合には、「その大口債権者が反対した」というだけで個人再生が失敗してしまうことになります。
    また、多数の取引先(買い掛け先)との関係が悪化してしまったような場合にも、小口債権者の多数から反対されたことで手続きが失敗に終わってしまう可能性があるのです。

    そもそも、取引先やメインバンクの理解が得られない場合には、個人再生が認められたとしても事業が行き詰まってしまう可能性も高いといえます。
    したがって、個人再生を申し立てるときには、取引先にも十分な説明をする必要があるのです。

    ③個人再生ができない場合
    個人再生とは、サラリーマンなどの一般消費者向けの債務整理手続きとして創設された手続きです。
    そのため、負債総額が5000万円を超える場合(住宅ローンの残額は除く)には、個人再生をすることができません

    このような場合であっても、個人再生ではなく、通常の民事再生をすることは可能です。
    しかし、通常の民事再生と個人再生との間には次のような違いがあることに注意してください。

    • 個人再生(小規模個人再生)では、再生計画案への消極的賛成でよい(債権者が明確な反対の意思表示をしなかった場合には賛成したものとみなされる)のに対し、民事再生では、債権者の積極的賛成が必要となる(態度を明らかにしなかった債権者は再生計画に反対したものとみなされる)
    • 民事再生では、個人再生のような「最低弁済基準額」が決められていない(債権者が積極的に賛成できる再生計画案を作る必要がある)
    • 民事再生では、住宅ローン特則を適用できない(そのため、自宅兼事務所を残すことが難しい)


    そのため、通常民事再生では、債権者との関係調整が個人再生の場合よりもさらに重要となってくるのです。

  3. (3)コロナ禍が原因で借金が返済できなくなった場合の特別措置

    コロナ禍が原因で事業不振に陥り、借金が返済できなくなった場合に関しては、今後は、金融庁などが金融機関と策定した「債務整理ガイドライン」に基づいて借金を解決できるようになる予定となっています

    この債務整理ガイドラインは、もともとは、東日本大震災に被災したことで借金返済に行き詰まった人を救済する目的で作られたものです。
    そして、震災と同じく「災害」である、コロナ禍を原因とした個人事業主の借金問題を解決するためにも用いることができるように、調整がすすめられているのです。

    この債務整理ガイドラインを適用した債務整理は、次の点で、自己破産・個人再生・任意整理よりも優れています。

    • 通常の自己破産よりも手元に残せる財産が多くなる(自由財産の拡張)
    • 信用情報への登録がない(いわゆるブラックリスト入りを回避できる)
    • 連帯保証人に迷惑をかけない(金融機関から連帯保証人に履行請求されない)


    また、自宅(兼事務所)についても、債権者の同意を取り付けることができれば、売却せずにそのまま手元に残せる可能性があります

    他方で、債務整理ガイドラインの適用には、すべての債権者の同意が必要となります。そのため、債権者との調整や、返済計画作成の負担は、自己破産・個人再生に比べて重くなるという面があるのです。

3、借金問題は早期相談・早期対応が重要

ここまで解説してきたように、多額の借金が返せなくなってしまったときでも、自己破産以外の方法で解決できれば、自宅(兼事務所・店舗)を失わずに借金だけを解決することが実現できる可能性は十分にあります。

  1. (1)早期に対応すれば選択肢が増える

    自己破産以外の方法で借金を解決するためには、解決が不可能なほどに状況が泥沼化してしまうことを避けるため、1日でも早く債務整理を実行することが重要となります。
    負債総額が増えれば増えるほど、自己破産以外の方法で借金を解決できる可能性が低くなってしまうからです

    ここまで解説してきたように、債務整理をしても自宅を失わずに借金を解決できる可能性は、十分に残されています。
    そのため、借金の返済が苦しいと感じた場合には、少しでも早く弁護士に相談するとよいでしょう。

  2. (2)債務整理を依頼すれば借金返済をストップできる

    早期に債務整理を依頼すれば、それだけで、資金繰りにゆとりをもたせられるようになる可能性があります。
    弁護士に債務整理を依頼すれば、一時的に(債務整理の手続きが終わるまでの間)借金返済をストップさせることができるためです

    また、借金返済のための金策にとられる負担から解放されて、事業に専念できるようになることで、事業の早期立て直しが実現できる場合もあるでしょう。
    さらに、弁護士が間に入ることで、今後に向けての取引先との交渉・調整が成功する可能性も高くなるのです。

4、まとめ

自宅が事務所や店舗を兼ねている個人事業主や自営業者にとっては、自宅を失うことは業務の遂行に大きな支障をきたし、廃業を迫られてしまう可能性も高くなるでしょう。

しかし、多額の借金の返済に行き詰まった場合であっても、個人再生などの手続きを利用できれば、自宅兼店舗の建物を失わずに、借金の問題だけを解決できる可能性があるのです。

自己破産以外の方法で借金を解決するためには、借金の額が少ないうちから債務整理を実施することが、なによりも重要になります
借金の問題で悩んでおり、自己破産を検討されている自営業者の皆さまは、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にまでご相談ください。

この記事の監修者
萩原達也

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
債務整理、任意整理、自己破産、個人再生、過払い金請求など、借金問題についてのお悩み解決を弁護士がサポートいたします。債務整理のご相談は何度でも無料です。ぜひお気軽に お問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
オフィス
[実績]
・債務整理の相談件数 36万8091件
  ※集計期間:2011年2月~2022年12月末
・過払い金請求 回収実績件数 90253件
・過払い金請求 回収実績金額 1067億円以上
  ※集計期間:2011年2⽉〜2022年12⽉末
[拠点・弁護士数]
全国76拠点、約350名の弁護士が在籍
※2024年10月現在
[設立]
2010年(平成22年)12月16日

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