債務整理 弁護士コラム
債務整理を考えている方のなかには、貸金業者だけでなく友人から借金をしている方も少なくないと思います。
貸金業者からの借金は債務整理で解決するとしても、友人からの借金だけは先に全額返したいと考える方も多いことでしょう。
しかし、それは少し待ってください。
その行為は「債権者平等の原則」に違反するかもしれません。
債務整理には債権者平等の原則というものがあり、この原則に違反すると借金問題を解決するのが難しくなってしまうことがあります。
そのため、早い段階で債権者平等の原則の意味を理解しておくことが非常に重要です。
そこで今回は、
・債権者平等の原則とは何か
・債権者平等の原則に違反するとどうなるのか
・債務整理をしつつ友人からの借金を優先して返済するにはどうすればいいのか
などの項目について解説していきます。
債務整理をする前に友人からの借金を返済したいとお考えの方のご参考になれば幸いです。
まずは、債権者平等の原則とは何を指すのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。
債権者平等の原則とは、債務整理をする際にすべての債権者を平等に扱わなければならないというルールのことです。
貸金業者にせよ、クレジットカード会社にせよ、お金を返済しなければならない相手に対してはすべて平等に対応しなければならず、特定の債権者だけを特別扱いすることはできません。
債務整理をしようとお考えの状態であれば、借金の返済が苦しくなっていることでしょう。
しかし、返済しないのであればすべての債権者への返済をストップしなければならず、返済するのであればすべての債権者へ返済を行わなければいけません。
この原則が「債権者平等の原則」です。
なぜ「債権者平等の原則」というルールが定められているのかというと、ひとことでいえば、債権者に納得して債務整理に応じてもらうためです。
債務整理をするとき、債権者は本来返済してもらえるはずの借金を減免し、支払い時期を延ばすなどの面で譲歩することが求められます。
このとき、特定の債権者だけが債務整理前に優先して返済を受けていたり、債務整理後もこっそりと返済を受けているとすれば、他の債権者は納得できません。
すべての債権者が同じ条件で譲歩を求められてこそ、各債権者は納得して債務整理に応じることができます。
この観点から、自己破産ではすべての債権者に対する債務が一斉に免除され、破産者の財産は各債権者の債権額に応じて平等の割合で配当されることになっているのです。
個人再生の場合なら、各債権者の債権額に応じて平等の割合で債権が減縮されます。
借金を抱えている方なら、ある時期に特定の債権者にだけ多めに返済し、逆に特定の債権者にだけ延滞してしまったという経験が多かれ少なかれあることと思います。
そのような行為のすべてが、債権者平等の原則に違反するわけではありません。
債権者平等の原則が適用されるのは、「支払不能」の状態になった後です。
支払不能の状態とは、返済期限が到来した債務を一般的かつ継続的に返済できない状態のことをいいます。
わかりやすくいうと、大半の債権者に返済できなくなった状態のことです。
大半の債権者に返済できない状態になった後に一部の債権者にだけ返済をすると、債権者平等の原則に違反することになります。
逆にいえば、借金があってもすべての債権者に対して滞りなく返済している状態であれば、特定の債権者にだけ優先して一括払いをしても問題になりません。
それでは、具体的にどのような行為が債権者平等の原則に違反するのかをご説明します。
ついやってしまいがちな3つのケースをご紹介するので、気付かなかった方はくれぐれもご注意ください。
債務整理をする直前に友人からの借金だけを全額返済しようとする方がいますが、これは債権者平等の原則に違反する可能性が高いです。
前項でご説明したとおり、支払不能の状態に陥った後に一部の債権者だけに支払いをすることはできません。
友人であっても、お金を借りた相手は「債権者」として他の債権者と平等に扱わなければなりません。
友人に迷惑をかけたくないという気持ちは十分にわかりますが、大半の債権者に返済できなくなったのに友人にだけ返済すると、債権者平等の原則に違反します。
友人に返済する場合は自発的に返済することが多いと思いますが、逆に催促が厳しい債権者にだけ返済をすることも債権者平等の原則に違反する可能性があります。
支払不能状態に陥った後は、たとえ厳しい催促を受けたとしても、一部の債権者だけに支払う行為は債権者平等の原則違反となります。
債権者への返済を口座からの引き落としにしている場合は、気付かないうちに債権者平等の原則に違反してしまうことがあります。
毎月の返済額が月収の額を超えて支払不能となったのに、給料日の直後に一部の債権者への返済だけが引き落とされてしまうと、債権者平等の原則に違反します。
税金や公共料金の支払いをクレジットカード払いにしている場合も注意が必要です。
税金や公共料金は優先して支払っても債権者平等の原則違反にはなりませんが、そのカードでショッピングやキャッシングも利用している場合は、その返済金も一緒に引き落とされてしまいます。
支払不能状態に陥った後に特定のクレジットカードの利用代金のみが引き落とされてしまうと、債権者平等の原則違反となります。
債権者平等の原則は、単に「できるだけ債権者を平等に扱いましょう」というものではなく、違反すると債務者が大きな不利益を受けてしまいます。
具体的には、以下のように自己破産や個人再生の手続きがうまくいかず、債務整理に失敗してしまうおそれがあります。
支払不能状態に陥った後に特定の債権者にのみ返済することは、「偏頗弁済」として破産法で禁止されています。
違反すると、免責が許可されないことになっています(破産法第252条1項3号)。
免責が許可されないということは、借金の返済義務が免除されないことを意味します。
破産してもすべての借金がそのまま残ってしまうので、これでは何のために自己破産を申し立てたのかわからなくなってしまいます。
また、偏頗弁済は破産手続において否認の対象となります(破産法第162条1項)。
否認とは、簡単にいうと破産管財人が配当金を確保するために偏頗弁済として支払われた返済金を取り戻すことをいいます。
つまり、自己破産前に友人からの借金を優先して返済した場合、偏頗弁済に該当すると、破産管財人がその返済金を友人から取り戻すことになります。
したがって、債権者平等の原則に違反して友人に返済すると、結果的に友人に対して余計な迷惑をかけることになってしまいます。
個人再生の場合は、債権者平等の原則違反があると通常の場合よりも返済額が多くなってしまいます。
個人再生では、返済額は原則として借金総額の5分の1に減縮されます。
ただし、「清算価値保障の原則」というものが定められており(民事再生法第174条2項4号)、債務者が保有する財産に相当する金額は最低限返済しなければならないことになっています。
債権者平等の原則に違反する偏頗弁済があった場合は、その分債務者に財産があったとみなされるので、清算価値保障の原則により偏頗弁済した金額が個人再生による返済額に上乗せされます。
たとえば、個人再生を申し立てる時点で財産が100万円しかなかったとしても、その前に友人に対して50万円を返済していると150万円を返済しなければならなくなります。
ここまでご説明してきたように、特定の債権者のみを優遇すると債権者平等の原則に違反し、債務整理できなくなるおそれがあります。
しかし、債権者平等の原則は支払い義務を負うすべての場合に適用されるわけではありません。
ここでは、債権者平等の原則の例外が認められるケースについてご説明します。
任意整理とは、自己破産や個人再生のように裁判所を介することなく、各債権者と直接交渉することによって返済額や返済方法を新たに取り決める手続きのことをいいます。
新たな返済計画が裁判手続きによって強制的に決められるわけではなく、債権者と債務者の合意によって定められるため、任意整理においては債権者平等の原則は適用されません。
したがって、任意整理であれば特定の債権者に対する債務のみを先に一括返済したり、そのまま返済を続けたりしながら他の債務を整理することが可能です。
ただし、弁護士に依頼する場合は、すべての債権者について依頼するよう求められることが多いでしょう。
破産法では、債権者平等の原則が適用されず、免責の対象とならない債権がいくつか定められています。
支払不能状態に陥った後に、これらの債権に対する支払いを行っても偏頗弁済にはなりませんが、逆にいえば、自己破産をして免責が許可されてもこれらの債権は支払わなければならないということでもあります。
債権者平等の原則が適用されない主な債権を以下にご紹介します。
これらの債権は、個人再生においても減額の対象にならず、通常どおりに支払うことになります。
①税金などの公租公課
は債権者平等の原則とは関係なく支払い義務があります。
②養育費
離婚後に子どものために支払う養育費も債権者平等の原則の適用の例外となります。
自己破産や個人再生をしても、親族間の扶養義務や結婚中の家族の生活費については支払う義務がありますが、離婚後も子どもの養育費は支払わなければなりません。
③損害賠償金
損害賠償金については、以下のものが債権者平等の原則の例外となります。
たとえば、離婚の慰謝料であれば、通常の場合は「悪意」までは認められないので、債権者平等の原則が適用され、自己破産で免責を受ければ支払いが免除されます。
しかし、配偶者に精神的損害を与えることを目的としてことさらに不倫をしたような場合は「悪意」があると判断され、慰謝料請求権は債権者平等の原則の例外となります。
この場合、自己破産をして免責を受けても支払い義務は免除されません。
交通事故による慰謝料についても、通常の場合は債権者平等の原則が適用されます。
しかし、飲酒運転や無免許運転、無謀な運転によって事故を起こした場合は「故意または重大な過失」があると判断されて、債権者平等の原則の例外となります。
前記2(2)で、催促が厳しい債権者にだけ返済すると債権者平等の原則に違反すると説明しましたが、担保を設定している債権者については例外となります。
担保は、そもそも債権者が他の債権者よりも優先して返済を受けるために設定するものなので、担保が設定されている場合は債権者平等の原則に関係なく担保権を実行することができるのです。
たとえば、借金をするときに自宅に抵当権を設定した場合は、たとえ自己破産をしても債権者は破産手続外で抵当権を実行して自宅を売却し、債権を回収することができます。
この場合、偏頗弁済の問題にはなりません。
民事再生法では、住宅ローン債権のみを特別扱いすることができる「住宅ローン特則」(正式名称は「住宅資金特別条項」)というものが定められています。
住宅ローン特則とは、個人再生手続きにおいて、住宅ローン債権のみは他の債権と異なる条件で返済することを認める特則のことです。
これは、債務者の生活を守るために設けられた特則といます。
個人再生で住宅ローン特則を使えば、住宅ローンについては約定どおり、またはリスケジュールをした上で返済しつつ、他の一般債権のみを減縮してもらうことが可能になります。
ここまで、債権者平等の原則の内容とその例外についてご説明してきました。
友人からの借金のみを債務整理の直前に返済する行為は、残念ながら債権者平等の原則に違反する可能性が高いといます。
しかし、以下の方法をとることができれば、債権者平等の原則に違反せず友人からの借金を返済することができます。
前記4(1)でご説明したとおり、任意整理をする場合は債権者平等の原則は適用されません。
したがって、友人からの借金だけを除外して他の借金だけを任意整理することができます。
任意整理であれば債権者平等の原則を気にする必要はありませんが、借金総額や収入によっては任意整理を選択することは難しい場合もあるでしょう。
その場合は、弁護士に相談することによって、状況に応じて最適な解決方法についてアドバイスを受けることがおすすめです。
自己破産や個人再生では債権者平等の原則に違反すると偏頗弁済の問題が発生しますが、偏頗弁済が問題となる時期や程度は必ずしも明確に決まっているわけではありません。
理論上は偏頗弁済に該当しても、実際の自己破産や個人再生では特に問題にならないケースも存在します。
どこまでなら大丈夫なのかが気になるときは、経験豊富な弁護士に相談してみましょう。
いずれにしても、早めに弁護士に相談することで適切な解決が期待できます。
自己破産や個人再生をするときは、思わぬ行為によって債権者平等の原則に違反してしまい、免責が認められなかったり返済額が増大したりする結果となってしまうおそれがあります。
したがって、債務整理を検討するなら、早めに債権者平等の原則について正確に理解しておくことが非常に重要なのです。
債務整理によって確実に借金問題を解決するためには、お早めに弁護士にご相談なさることをおすすめします。
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