債務整理 弁護士コラム
時効の援用が気になる人のほとんどは、「返済の苦しくなった借金を消滅時効で解決しよう」と考えている人ではないかと思います。
時効の援用は、消滅時効で借金を帳消しにするときに「必ず行わなければいけない通知の儀式」みたいなものです。つまり、借金の返済を放置するだけでは消滅時効で借金を踏み倒すことはできないということです。
この記事では、
消滅時効を援用するための要件
消滅時効を援用する方法
消滅時効援用をめぐるトラブル
などについて解説していきます。
消滅時効は、一般の人が思っているよりもはるかに難しく、リスクの高い借金の解決方法です。ネット上には、不正確・不十分な解説をしている記事も少なくありません。
「借金を消滅時効で解決したい」と考えている人は、正しい情報をしっかり理解した上で、「こんなはずではなかった」と後悔することのないように、慎重に検討してください。
時効の援用とは、「時効によって利益を得る(相手に不利益を生じさせる)ことを、その相手方に伝えること」です。
たとえば、借金の消滅時効を援用するというのは、「消滅時効によって借金の返済義務を消滅させることを債務者(借主)が債権者(貸主)に伝える」ことをいいます。
消滅時効によって、借金の返済義務を消滅させるためには、時効の援用を必ず行わなければなりません(民法145条)。「借金を数年間返済せずに放置しているだけ」では、消滅時効によって返済義務を消滅させることはできないので注意しましょう。
時効援用は、「すでに完成している時効の効果を適用する」と相手方に宣言する行為なので、(借金の場合には消滅)時効が「完成」した後でなければ、時効援用をすることはできません。
たとえば、「時効が完成したら援用します」と事前に宣言してから夜逃げするというようなことはできないということです。
借金の消滅時効は、最後の取引日から
で完成します。
※2020年4月1日以降にした借金の場合には、上とは異なるルールが適用されるので注意しましょう。
消費者金融・銀行からの借金は、原則として最後の取引日から5年で消滅時効が完成しますが、住宅金融支援機構・信用金庫などの一部の金融機関は、法律上は「商人ではない」とされていることに注意が必要です。
したがって、住宅金融支援機構の住宅ローンの消滅時効は、最後の取引日から10年経たないと完成しません。
上の場合とは逆に、債権者が個人であっても、商事行為(営利を目的とした事業)として貸し付けられた借金であれば、消滅時効は5年です(個人で貸金業登録をしている人もたくさんいます)。
たとえば、最近増えている個人間融資で借りた借金のケースは、消滅時効は5年で完成すると解釈する余地があります。
とはいえ、個人間融資の実態はヤミ金であることがほとんどなので、消滅時効を問題とする前に、借金それ自体の返済義務を争える可能性があります(不法原因給付となるので返済義務が生じない場合があります)。
時効の完成日との関係で、もう1点注意しなければならないのは、民法が「初日不算入の原則」を採用していることです。
初日不算入とは、「行為のあったその日」は、日数のカウントに組み入れないという考え方です。
たとえば、8月1日15時に返済したという場合には、その翌日である8月2日から時効期間のカウントを始めるということです(ただし、「8月1日0時ちょうど」に返済したときには、8月1日も24時間確保することができるので、8月1日から時効期間のカウントを始めます)。
消滅時効が完成しているかどうかを確認するためには、「最後の取引日」を正確に把握しなければなりません。
最後の取引日は、返済時に債権者が発行する「お取引明細(ご利用明細)」に必ず記載されています。
明細書が手元にないときには、債権者のホームページにあるマイページ(会員専用ページ)から確認できるほか、信用情報の開示を行うことでも最終取引日を確認することができます。
消滅時効は、「返済さえ放置していれば完成する」というわけではありません。消滅時効は、あくまでも「債権者が権利行使を放置しているとき」に完成するものだからです。
したがって、借金の返済を放置していたとしても、時効完成の前に、債権者が権利行使してきたときには、時効期間のカウントをゼロからやり直すことになります。
これを時効の中断と呼んでいます。
時効を中断することのできる権利行使とは、「民事訴訟の提起」、「支払督促の申立て」といった裁判所を用いての回収を行うことを指します。
電話・メール・郵便での借金取立て(催告)は、「法律上の権利行使」ではないので、直接的に時効を中断させることはできません。
ただし、債権者が催告してから6か月以内に訴訟などを提起したときには、催告の時点で時効が中断することになります。
したがって、時効完成日が令和元年10月1日というケースで、令和元年9月20日に債権者から催告(督促郵便が届いた)というケースでは、令和元年10月1日までに訴訟を提起しなかったとしても、催告(令和元年9月20日)から半年である令和2年3月20日までに、債権者が訴訟(支払督促)を提起すれば、催告の時点である令和元年9月20日の時点で時効が中断することになります。
債務者の対応によっても時効が中断することがあります。それが「債務承認」した場合です。
要するに、「債務者が借金を認めている」ときには、債権者がいたずらに権利行使する必要がないことから、消滅時効を完成させることは適当ではないということです。
したがって、債務承認があった場合にも、時効期間は、ゼロからカウントしなおすことになります。
債務承認の典型例は、「借金を返済する(1円でも)」ことですが、
といった対応も含まれます。
実際に消滅時効が援用されるケースでは、「時効の完成」について債権者と争いとなることが少なくありません。
つまり、消滅時効を援用したところで、債権者から「まだ時効は完成していない」と反論されるケースが少なくないということです。
特に、時効期間の起算日(最終取引日)や、時効中断については、解釈の余地があるケースも珍しくないので、当事者間の認識に食い違いが生じやすいといえます。
素人判断で、時効が完成していると思い込み、慌てて時効援用を行えば、債権者に自らの連絡先を通知することにもなり、逆に時効中断のチャンスを提供することにもなりかねません。
消滅時効の援用をして借金を解決しようと考えている人は、必ず援用する前に弁護士などの助言を得ておいた方がよいでしょう。
時効の援用の行い方は、特定のやり方が法律で決められているというわけではありません。
したがって、時効援用の意思が相手方に伝わるのであれば、口頭・電話・メール・書面どのような方法であってもかまいません。
しかし、実務の上では、「時効援用(通知)書」とよばれるような書面を「内容証明郵便」の方法で相手方に送付して時効援用を行うのが一般的です。
時効援用は、特に重要な意思表示なので、「言った、言わない」というトラブルになることを避ける必要があります。
何かを伝える方法としては、「文書」を送付するのが、最も確実といえるでしょう。
また、内容証明であれば、記載内容を第三者(郵便局)が証明してくれるので、万が一の場合の証拠として利用することもできるからです。
借金の返済義務を消滅時効で消滅させるときの時効援用通知には、次の項目が記載されている必要があります。
意思表示は、「誰から誰へ」のものなのかが明確でなければなりません。
法律実務では、当事者は、氏名(名称)と住所(本支店所在地)によって特定することが一般的です。氏名・名称だけでは、同名の他人(企業)が存在するかもしれないので、住所(所在地)も組み合わせるわけです。
したがって、時効援用通知には、
を必ず記載します。
当事者の特定と同様に、消滅時効の対象となる権利義務も特定される必要があります。
同一人間で、複数の権利義務(契約)があるという場合もあるからです。
借金の消滅時効を援用するときには、
といった情報を示して、消滅時効の対象となる借金(契約)を特定します。
時効の援用は「時効が完成している」ことが前提となる行為なので、消滅時効が完成していることを明確に相手方に示す必要があります。
時効援用通知では、「最終取引日」を明示することで、消滅時効の完成していることを示します。
時効援用は、「時効の効果による利益享受を受ける」ことを相手方に通知する行為ですから、そのことがきちんと明示されていなければならないのは、当然です。
したがって、必ず「消滅時効を援用します」と明確に記載する必要があります。
単に「時効が完成しました」、「時効が完成したので、取り立てないでください」と伝えただけでは、時効の援用とはならないので注意しましょう。
時効援用通知それ自体は、決して難しい書類ではありません。
上で解説したポイントを正しく理解することができるのであれば、ネット上などで公開されている無料のテンプレートなどを利用して、自分で作ることも可能でしょう。
ただし、消滅時効で借金を解決する際には、時効の援用方法よりも、時効完成(時効中断)の有無をめぐって債権者と争いになることが少なくありません。
時効完成の有無は、単純に年月だけを追いかけても正しく把握できない場合が多いです。
特に、債務承認の有無が問題となるケースでは、事実を法的に評価できる知識・経験が状況判断する上で必須となります。
自分で時効援用の手続きをしたいという場合でも、最低限のリスクヘッジとして、弁護士などへの相談はした方がよいでしょう。
時効援用が行われる場面は、債権者とのギリギリの駆け引きになるケースも少なくありません。
銀行や消費者金融が「時効完成日を知らない」ということはあり得ませんし、時効が完成したからといって、回収(取立て)をやめるとは限らないからです。
実際にも、時効完成後の債権(借金)についても、平然と取立てを行ってくるようなケースも珍しくありません。
債権者は、「時効が完成しただけでは借金が消滅しない」ことをちゃんと知っています。
したがって、借金に消滅時効が完成したといっても取立てが止まるわけではありません。
この場合に、「時効も完成しているし、後日に時効の援用をするから」といい加減な対応をしてはいけません。
時効完成後に債務承認をしてしまった場合には、「すでに完成した消滅時効を援用する権利」を失ってしまうからです。
つまり、時効完成後であっても、債務承認をしてしまえば、再度時効期間をゼロから数え直さないといけないということです。
「借金を返す意思がある」と認めた直後に、返済しないと宣言する(時効援用する)ことを認めたのでは、あまりにも不公平である(債権者の保護に欠ける)ということが理由です。
ただし、次のような場合には、債権者を保護する必要性が低いと考えられるので、時効完成後に債務承認した場合でも、時効援用を認めてもらえる余地があります。
とはいえ、この場合の時効援用は、債権者は認めてくれず、裁判で争われることになる場合が多いでしょう。
時効完成後に債務承認してしまったという場合には、できるだけ早く弁護士に相談すべきです。
焦げ付いた不良債権がサービサーに譲渡されたような場合には、時効完成後であっても民事訴訟や支払督促が提起されるケースもあり得ます。
時効完成後であっても、訴訟で回収することは可能だからです。
消滅時効の適用は、強制的な決まりではないので、当事者が主張しない(援用しない)限り、裁判所は、「消滅時効はなかったもの」と扱って、裁判を進める(判決を言い渡す)のが原則です。
裁判所は、どちらか片方の当事者が一方的に有利になることを助言したりすることは、原則として慎むべきとされているからです。
このようなケースでは、「裁判を起こされたから消滅時効を援用できない」とあきらめてしまう必要はありません。
債権者による訴訟提起(催告)よりも先に、消滅時効が完成しているのであれば、提起された訴訟の中で、消滅時効を援用することもできるからです。
消滅時効を援用した場合には、「消滅時効が完成している」ことを証明して、裁判所に認めてもらえれば、「請求棄却判決(原告敗訴)」の判決が言い渡されます。
ただし、時効援用の主張をする前に、債務承認に該当する主張をしてしまわないように注意しなければなりません。
時効援用前に裁判を起こされてしまったというケースでは、「自力で何とかしよう」と無理をせずに、弁護士などの専門家の支援を受けた方が安心です。
消滅時効を援用することで借金を踏み倒すというのは、実は簡単なことではありません。
もし、「借金を返済せずに放置するだけでよいのでは?」と思っている人がいるのであれば、考え直した方がよいでしょう。
消滅時効は、上でも触れたように、「債権者が権利行使を長期間放置した」時に発生するものです。
少し極端に言い換えれば、消滅時効は「債権者が権利行使をサボっていたことのペナルティー」というわけです。
したがって、借金の返済をどれだけ放置していたとしても、債権者が権利行使をすれば、消滅時効は絶対に完成しません。
また、実際に消費者金融・銀行・クレジットカード会社といった債権者が、5年の間、全く何の権利行使もしないということは、現実的にはほとんどないことです。
たとえば、「夜逃げ」は、消滅時効による借金解決を目指して、債権者が権利行使しづらい状況を作る(住所をわからなくさせる)ことが目的の行為といえます。
しかし、実際には、住所がわからなくても裁判を起こすことは可能ですし、住所をわからなくさせるためには、「転出・転入届を出せない」ことになるので、代償もとても大きくなります。
住民票がなければ、国民健康保険などの公的サービスを使えないだけでなく、再就職にも大きな悪影響が出るからです。
つらい夜逃げ生活を何年も続けて、時効援用をしたところで、「債務者の知らないところで、公示送達によって訴訟が行われていた」のであれば、消滅時効で借金を踏み倒すこともできません。
まさに踏んだり蹴ったりです。
「消滅時効で借金を帳消しにすれば」、債務整理とは違って「信用情報に傷が付かない」と思っている人もいる人も注意が必要です。
たしかに、消滅時効を援用すれば、過去の信用情報(延滞の情報)などがすべて消去される場合はあります。
しかし、消滅時効を援用した際には、債権者によっては、過去の信用情報を消去した上で、「貸し倒れ」という信用情報を登録する場合もあります。
「貸し倒れ」というのは、事故情報(ブラック情報)なので、登録から5年は消去されません。
そもそも、消滅時効を援用するケースは、それまでの5年~15年の期間は、ずっと「延滞」の状況にあるのですから、信用情報との関係では、「早期に債務整理をする」のが最も有利な解決方法であることも忘れるべきではありません。
消滅時効によっていま抱えている借金を解決できる場合は、実際には、すでに「消滅時効が完成している」ケースや、「あと数日で消滅時効が完成する」というような、限られたケースだけと考えておいた方がよいでしょう。
時効完成まで、あと数ヶ月、数年以上あるというケースでは、時効完成まで債権者が何も権利行使しないと考えることは、とてもリスクが高いことだからです。
借金の返済に行き詰まったというケースでは、「延滞して踏み倒す」のではなく、債務整理できちんとした手続きを踏んで処理をした方が、安全で確実です。
借金の状況によっては、「私の場合にこんなデメリットがあるかもしれない」と思い込んでいるデメリットが発生しないこともあります。
借金の返済が苦しいと感じたときには、「無料相談」を上手に活用して、弁護士から適切なアドバイスをもらった上で、対応方法を検討すべきでしょう。
相談の時期は、早ければ早いほど、コストの小さい、リスクの小さい選択肢を残すことができます。
時効の援用それ自体は、「一方的な意思表示」なので、さほど難しいものではありません。
しかし、借金を消滅時効で踏み倒すことは、実際にはとても難しいことです。
債権者が5年間何もしないということは、ほとんどないことですし、裁判を起こされてからさらに10年(合計で最大15年)の間、借金を放置しつづけるということは、あまりにもつらすぎます。
また、時効が完成間近で、時効の援用の準備をしたいと考えている人でも、決して安心・油断してはいけません。
債権者は、時効完成直前に時効中断させることを考えている可能性はゼロではないからです。
消滅時効を援用することで借金を解決するときには、予期しないデメリットが生じることも少なくありません。まずは、弁護士の助言を受けて、現在の状況を正しく把握した上で、冷静に対処・判断するようにしましょう。
ベリーベストでは、借金問題の解決実績が豊富な弁護士が、問題解決のお手伝いをいたします。まずはご相談ください。
消費者金融や銀行といった金融機関に対する過払い金の返還請求は、借金の負担を軽減できる有効な方法のひとつです。
しかし、「過去に過払い金の請求をしたことが原因で、自動車ローンや住宅ローンなどの借金に悪い影響が出るのでは?」などと考えて、過払い金請求をためらう方は少なくないようです。
そこで今回は、過去の過払い金請求が、その後の自動車ローンや住宅ローンなどに影響を与えるのかについて、解説します。
消費者金融などからの借金に発生する過払い金の請求については、各メディアでのCMや広告でよく見聞きします。過払い金を請求できるケースであれば、借金を帳消しにできるだけでなく、逆に金融機関からお金を払ってもらえる可能性もあるといえます。そのため「返済が苦しくなった私の借金も過払い金で解決できるかもしれない」と考えている人も多いかもしれません。
しかし、最近の事案では過払い金請求できない場合の方が多いといえます。しかし、過払い金が存在しないケースでも借金を解決できないというわけではありませんので、諦める必要はありません。
そこで今回は、過払い金が発生する条件、過払い請求できない具体例、過払い金のない借金の解決方法などについて解説していきます。
過払い金で借金を解決したいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。
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しかし、一般の方にとって過払い金があるかどうかの調査は手間暇のかかる難しい作業というイメージが強いでしょう。
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しかし、過払い金の無料調査はメリットばかりというわけではありません。
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●過払い金の無料調査のメリット
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「もしかしたら、わたしにも過払い金があるかもしれない」と考えている方はぜひ参考にしてみてください。
ご相談の際は、原則お近くの事務所へのご来所が必要です。
まずは電話かメールでお問い合わせください。