債務整理 弁護士コラム
自己破産手続きの進め方についてくわしく調べている方の中には、「管財事件」と「同時廃止」の違いに疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
管財事件とは、ごく簡単にいえば「一定額以上の財産を持っている人が、自己破産を選択した場合の手続き」といえます。
「自己破産する人には財産はないのが普通なのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、勤続年数が長く退職金見込み額が多額な場合や、生命保険の解約返戻金がある場合、営業のために必要な資産がある場合のように、自己破産したときに財産の処分が問題となるケースは少なくないのです。
この記事では、
・同時廃止事件と管財事件の違い
・管財事件となった場合の手続きの流れ
・管財事件の場合に必要な費用
・自己破産が管財事件となった場合のデメリットとその対策
といった内容について解説します。
管財事件とは、自己破産の手続きを申し立てた人に一定額以上の財産がある場合に、その財産を換金して債権者に配当する類型の破産手続きのことです。
自己破産する人に所有財産がある場合には、その財産は競売などにかけてお金に換え、そのお金を借金の債権者に分配する必要があります。したがって「管財事件」は自己破産した際の原則的なやり方といえます。特に会社(法人)の自己破産では、ほぼ例外なく管財事件となります。
個人の自己破産の場合には、管財手続きを行う費用すらない場合には、「同時廃止」という方法が選択されます。
以下では、管財事件による自己破産手続きの進め方について具体的に見ていきましょう。
裁判所に自己破産手続きを申し立てた場合の仕組みについて、もう少しくわしく見ていきましょう。
あなたが自己破産手続きの開始を裁判所に対して申し立てると、裁判所はあなたの状況に応じて「同時廃止事件」か「管財事件」のどちらかのかたちで手続きを開始します。
おおまかにいうと、あなたに換金できる財産がある場合には管財事件、財産が何もない場合には同時廃止事件となります。
以下では、同時廃止事件と管財事件の手続き上の違いについてくわしく説明します。
●管財事件になると費用・労力ともに大きくなる
同時廃止事件となった場合には、自己破産の手続きは開始と同時に終了するので、手続きの負担や費用は最低限で済みます。しかし、管財事件となった場合には、財産の換価・配当が行われるために、自己破産を申し立てた人にも一定の程度の負担が生じます。
裁判所に自己破産手続きの開始を認めてもらうためには、あらかじめ「予納金」という形でお金を納めなくてはなりません。
一般個人の人が弁護士に依頼せずに自己破産の申し立てを行い管財事件となった場合には50万円程度の予納金が必要となります。
一方で、同時廃止事件となる場合の予納金は、官報掲載費用として必要な1万5000円程度ですから、大きな差があるといえるでしょう。
(予納金の金額は、実際に申し立てを行う裁判所によって異なります)
自己破産の申し立てをする人の立場としては、できる限り同時廃止事件として扱ってほしいところですが、どのような形で手続きを進めていくかは裁判所が判断して決めることですので決定に従う必要があります。
なお、「予納金に50万円も取られるのでは、自己破産なんてとてもできない……」と感じてしまった方も心配ありません。
弁護士に依頼して自己破産手続きを行う場合には、次で見る「少額管財事件」として扱ってもらえる場合が多いですから、裁判所に納める予納金も20万円程度まで減額してもらえることが多いです。
少額管財事件とは、その名の通り「予納金が少額で済む管財事件」という意味で、弁護士に依頼して自己破産手続きを申し立てした場合に選択できる方法です。弁護士が代理人として就いているときに予納金が安くなるのは、代理人弁護士が破産手続きで行われる作業の一部を代わりに行えることが理由とされています。
(したがって、弁護士に依頼せずに本人申し立てしたときには少額管財事件としてもらうことはできません)
●通常の管財事件と少額管財事件の費用の比較
前述のとおり、通常の管財事件では予納金は50万円以上かかり、少額管財事件となった場合は予納金は20万円程度となります。
弁護士に自己破産手続きを依頼した場合には、30万円~40万円程度の費用が必要となりますが、通常は少額管財事件として扱ってもらえますから、トータルで負担する費用はほとんど同じになるでしょう。
弁護士に対して支払う報酬は分割払いに対応してもらえることも多いです。依頼する前に確認してみるとよいでしょう。
管財事件は通常は半年~1年ほどの期間をかけて手続きをしていくことになりますが、少額管財事件として扱ってもらえた場合には、手続きにかかる時間も通常の管財事件よりも短くなります。
管財事件となることが明らかな場合(持ち家がある場合など)には、費用や手続きの負担を軽減するためにも、弁護士に依頼して自己破産を申し立てるべきといえるでしょう。
あなたが差し押さえ可能な財産を一定額(東京地方裁判所では20万円)以上もっている場合には、原則として同時廃止事件ではなく管財事件として扱われます。
ただし、財産が少ないときでも、免責不許可事由に該当する場合などには、管財事件として扱われる可能性があるので注意しておきましょう。
免責不許可事由の典型例は、「ギャンブルや浪費によって多額の借金を抱えてしまった場合」です。そのほかにも、「不公平な弁済がある場合」や「財産隠しが疑われる場合」などが挙げられます。
具体的にどのようなケースで同時廃止となり、管財事件となるのかについては、「4、管財事件と同時廃止の振り分け基準は?」でくわしく説明していますので、参考にしてみてください。
申し立てをした自己破産手続きが、管財事件として扱われた場合には、次のような流れで手続きが進んでいきます。
以下では、それぞれの手続きの内容について、順番に見ていきましょう。
なお、弁護士に依頼して自己破産手続きを行う場合には、申立書類の作成や裁判所内での手続きのほとんどを代行してもらうことができますから、あなた自身が行う手続きはあまりありません。
①申し立てを行う
自己破産手続きの申し立てを行うための必要書類をそろえ、陳述書などの作成が完了した段階で、裁判所に対して自己破産手続き開始の申し立てを行います。
②裁判官と面接
東京地方裁判所の場合には、申し立てを行ったその場で、裁判官と面接を行います(弁護士に依頼している場合には弁護士があなたの代わりに面接を行います)。
この面接ではあなたの財産の状況などの説明を行い、同時廃止事件となるか管財事件(少額管財事件)となるかが決まります。
その他の裁判所でも、開始前審尋などと呼ばれる裁判官との面接が行われる場合があります。
③破産手続き開始の決定
申し立ての内容などに問題がなければ、裁判所は破産手続き開始の決定を出します。
東京地方裁判所では、原則として少額管財事件の場合は即日面接が行われた週の翌週の水曜日にこの決定が出されることになっています(実際に申し立てを行う裁判所によって扱いは異なります)。
④破産管財人が選任・予納金の納付
管財事件となった場合には、手続き中にあなたの財産の管理・売却・債権者への配当を実施する破産管財人が選任されます。
なお、破産管財人は申し立てをした裁判所の管轄内に事務所を持つ弁護士が担当するのが普通です。
また、破産管財人が指定されたら、予納金を納付するための銀行口座が指定されますから、期限までに予納金を入金しなくてはなりません。
⑤破産管財人との打ち合わせ
選任された破産管財人の法律事務所で、指定された日時に打ち合わせを行います。
打ち合わせではあなたの財産や収入の状況、免責不許可事由の有無などについて説明を行う必要があります。
⑥破産管財人による財産の調査や処分手続き
破産管財人は、あなたの財産を換金し、債権者に分配するためのさまざまな手続きを進めていきます。
あなたには管財人の職務遂行に協力する義務があります。正当な理由もなく破産管財人からの質問を無視したり、隠しごとやうそをついたりすれば、免責不許可となる可能性があります。
⑦債権者集会
管財人による財産の調査が進んだ時点で、管財人はあなたにお金を貸していた債権者に対してあなたの財産状況や手続きの進行状況について説明を行います。
ただし、銀行や消費者金融などの金融機関が債権者である場合には、実際に債権者集会に担当者が出席することは少ないでしょう。
⑧債権者に対する配当
配当可能な財産があるときには、債権者に配当するための期日(配当期日)が設定されます。少額管財を実施しても配当できる財産がなかった場合には、債権者集会の段階で異時廃止(破産手続きの終了)の措置がとられます。
東京地方裁判所の場合は、配当期日が設定されるものの、実際には配当のための期日は行われずに配当期日の前に配当されて終了することが多いです。
⑨免責審尋
管財事件となった場合には、債権者集会に引き続いて免責を与えるための期日が開催されます。これを「免責審尋」といいます。免責審尋では、破産管財人や債権者から免責を与えるべきかどうかについて意見が述べられ、裁判所との質疑がある場合もあります。また、あなた自身にも意見(免責を与えてほしいこと、今後はしっかり更正すること)を述べる機会が与えられます。
⑩免責許可の決定
債権者集会、免責審尋が完了してから1週間程度で、裁判所は最終的な免責の可否についての決定を出します。
免責許可決定が出た場合には、「官報」にその旨が掲載されます(免責許可決定から2週間後)。
官報掲載(公告)から2週間以内に債権者からの異議が出なかった場合には、あなたの免責は確定することとなります(つまり借金の支払義務が免除されます)。
自己破産手続きが、同時廃止事件ではなく管財事件とされた場合には、手続き上さまざまなデメリットが生じる可能性があります。
具体的には次のような点が管財事件となった場合のデメリットといえるでしょう。
以下、順番に説明いたします。
管財事件では、あなたの所有財産のうち、換金する価値のあるものは破産管財人が処分方法を決めます。
基本的にあなたの意見は考慮してもらうことができませんから、手続きが開始した時点でそれらの財産の所有権は失ったものと理解しておく必要があります。
もっとも、生活していくための家財道具や最低限の現金(99万円以内)はあなたのものですので、処分を強制されるようなことはありません。
管財人は、あなたの財産の状況や、あなたの生活状況(収入がいくらあって、どのような生活費にいくら使っているのかなど)をくわしく質問してくることがあります。
また、免責不許可事由に該当することが疑われるケースでは、免責不許可事由の存在についての調査や、裁量免責を与えることの可否についての調査をするために、破産管財人から質問されたり、日記や家計簿の提出を求められることがあります。
破産管財人の職務に協力しない場合や、指示に従わないときにはそのこと自体が免責不許可事由となる可能性があります。破産管財人からの質問には正直に答え、指示には必ず従いましょう。
管財事件として自己破産手続きが開始すると、あなた宛てに届く郵便物は、すべてが郵便局から管財人の事務所に回送され、内容を確認されることになります。
これは、あなたに財産目録に載せた以外の財産がないかをチェックするために行われるものです。
管財事件による自己破産手続きは半年以上かかる場合もありますから、ストレスに感じる方も多いと思いますが、これを避ける方法ありません。
管財事件での自己破産手続き中は、引っ越しの制限を受けます。また、海外旅行や遠方への旅行も制限されます。自分が行く場所について制限されるというのは窮屈なものですが、これも自己破産手続き期間中だけの話です。
引っ越しや長期の出張・旅行が必要なときには、事前に裁判所の許可を得なければいけません。正当な理由があれば、許可を得られないことはないので、実際に大きな問題となることはないでしょう。
具体的にどのような場合に管財事件となり、同時廃止事件となるは、次のような振り分け基準で判断されます。
それぞれの項目について、順番に見ていきましょう。
自己破産手続きを開始する時点で、あなたにお金に換えられる資産がある場合には、管財事件として自己破産の手続きが進行していきます。
「破産管財人の報酬を支払えるだけの財産があるとき」には管財事件となるのが原則です。したがって、破産管財人の報酬額である「20万円以上の財産」をもっているかどうかがひとつの目安となります(東京地方裁判所などの場合)。
たとえば、「20万円以上の預貯金がある」、「評価額が20万円を超える自動車を所有している」、「生命保険の解約返戻金が20万円以上ある」、「退職金の支給見込み額が160万円以上ある(1/8の金額が差し押さえの対象になります)」ときなどは、東京地方裁判所の場合には原則として管財事件となります。
なお、実際のケースでの振り分けは、破産事件の内容や裁判所ごとによって異なるので、それぞれの地域の弁護士に確認した方が良いでしょう。
また、所有財産として不動産(土地や建物)がある場合には、原則として管財事件となりますが、「明らかにオーバーローンの場合」には、同時廃止となることもあります。どの程度のオーバーローンで同時廃止にできるかは、裁判所によって基準が異なります。
免責不許可事由に該当する場合や、該当することが疑われる場合には、「財産の有無を問わず」管財事件となることが多いです。
免責不許可事由に該当する場合でも「絶対に免責されない」というわけではありません。裁判所は免責不許可事由に該当するケースでも「裁量」で免責を認めることができるからです。
自己破産手続きを開始した時点で、あなたが負っている借金の金額が大きい場合にも、管財事件として扱われる可能性が高くなります。何も財産を持っていない人が多額の借金をすることは難しいからです。そのため、負債額が大きいときには、「自己破産申し立ての際に申告された財産が少ない場合」でも、財産の調査のために破産管財人が選任されます。
個人事業主や法人の代表者など、自営業として活動している人が自己破産手続きを行う場合は、管財事件として扱われる可能性が高いです。
なお、中小企業が自己破産するときには、その経営者の自己破産も同時に行うことが一般的です。
その際、経営者個人の自己破産手続きは管財事件として扱われ、牽連(けんれん)事件として同じ破産管財人の下で手続きが進行していくこととなります。
実際に自己破産を考えている人の多くは、費用も負担も少ない同時廃止で自己破産したいと考えていると思います。
あなたが申し立てする自己破産手続きが管財事件となってしまう可能性がどの程度あるのか?については、以下のような点があるかどうかが参考になります。
①や②は免責不許可事由に該当する理由がないかですが、普通に生活をしていて、収入の変化や病気などによって借金を負うに至ったという方であれば、大きな問題とはならないでしょう。
また、管財事件となるのは原則として所有財産がある人のケースですから、③で20万円以上の換金価値がある財産の有無についてもチェックしておきましょう。
(自動車は登録年数を基にある程度の見通しを立てることができます)
管財事件となる可能性が高いのか、同時廃止事件となる可能性が高いのかは、経験のない方が判断するのはなかなか難しいですから、④専門家に具体的な状況を説明しながら相談してみることも検討してみてください。
自己破産その他の債務整理について不安点や疑問点がある方は、借金解決の経験が豊富な弁護士に相談することを検討してみてください。
あなたの自己破産手続きが管財事件として扱われる場合にも、弁護士に手続きを委任した場合には少額管財事件として少ない予納金で手続きを行える可能性があります。
弁護士に依頼した場合には別途弁護士費用が発生しますが分割払いに応じてもらうことも可能ですから、今手元にお金がなくて困っているという方も弁護士に手続きを依頼することは可能です。当事務所の詳しい費用については以下のページをご確認ください。
今回は、自己破産手続きが管財事件として裁判所に扱われる場合について、手続きの流れや費用相場について説明いたしました。
管財事件として自己破産手続きを行う場合には、通常は半年以上の期間をかけて手続きを進めていくことになります。
どのようなケースで管財事件となるのかを事前に理解しておくとともに、手続きの流れについてよく理解しておくようにしましょう。
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