債務整理 弁護士コラム
「自己破産は、どうやっても借金が返せなくなった場合の最終的な救済手続きです。
「自己破産したら借金が免除される」ということを最後の希望にしてつらい毎日を耐えている人もいるかもしれません。
しかし、自己破産はすべてのケースで「無条件」に借金を免除してくれる手続きではありません。実際にも、数は多くないものの「借金免除が認められなかった」というケースもないわけではありません。
そこで、この記事では、自己破産における借金免除の仕組みである「免責」について
●免責を得るための手続きの流れ
●免責を得ても免除されない借金(負債)の具体例
●免責されない場合の原因
といったことについて解説していきます。
まずは、自己破産における「免責」について、基本的な項目を確認しておきましょう。
自己破産は、債務者が抱えている負債を、債務者が持っている財産を処分することで一括清算するための手続きです。そのため、自己破産をすれば、売却価値のある財産は、破産管財人によって差し押さえられて売却され、債権者への配当に充てられます。
自己破産した場合には、債権者への配当後も必ず負債が残ります。なぜなら、自己破産は、債務者の収入・所有財産では完済できない状態(支払不能)でないと認められないものだからです。
財産処分による清算後に残った借金の帰趨を決める手続きが「免責手続き」というわけです。
なお、法人の自己破産の場合には「免責手続き」は存在しません。法人は破産すれば解散させられることになっているので、法人の解散(消滅)と共に、負債も消滅してしまいます。
他方、個人(法律では自然人といいます)の自己破産の場合には、自己破産したことで消滅するわけにもいかず、今後の生活のことも見据えなければいけません。
その意味で、免責の手続きは、「自己破産後に残った負債を免除する」ことで「債務者に再チャレンジする機会」を提供するための手続きであるともいえます。
免責の手続きは、自己破産手続きの終了後、
という流れで進められます。
①免責手続きの申し立て
法律上の建前としては、自己破産の手続きと、免責の手続きは別の手続きです。
厳密には、免責を受けるには、「免責許可申出書」という破産手続申立書とは別の書面を提出する必要があります。
(今の実務運用では、ひとつの書式で、両方を兼ねるようになっていて、自己破産申し立ての際にあわせて免責許可も申し立てることになっています)
②免責審尋
免責審尋とは、裁判所が、債務者に免責を与えるべきかどうかを判断するための必要な調査・意見聴取を行うための手続きです。
一般的には、破産管財人からの免責不許可事由についての報告に基づき、裁判所から債務者(破産者)に、いくつかの質問があります。
また、債権者にも、債務者に免責を与えることについての意見を求めます。免責を与えることに反対する債権者もいるかもしれませんが、債権者の反対があったら免責を得られないというわけではありません。
最後に、債務者本人にも言葉を述べる機会が与えられます。これまでの生活についての謝罪・反省の弁を述べ、今後の生活はきちんとしていくといったことを誓うのが一般的といわれています。
③免責許可決定
裁判所は、破産管財人の調査結果、免責審尋の結果を踏まえて、免責を与えるか否かの決定を出します(免責許可決定・免責不許可決定)。
言い渡された免責許可決定は、債務者に送達されるほか、官報および裁判所の掲示板で公告されます。
この公告期間(2週間)の間に、債権者から異議がでなければ、免責決定が確定します。
免責は、文字通り、「責任を免ずる=借金の支払い義務を免除する」という意味です。
したがって、免責許可決定が確定すると、自己破産手続きの対象となった借金の返済義務が法律上消滅します。
また、免責を得ることで、「復権」の効果が生じ、破産者となったことで生じていたすべての制限が解除されます(実務的には、資格制限以外の制限は破産手続きの終了で解除されているので、資格制限が解除されることに意味があります)。
免責は、自己破産後に残った借金について、法律上の返済義務を免除するものです。
したがって、「借金それ自体が消滅する」というわけではありません。一般の人には少しわかりづらいのですが、免責を受けると「返済しなくても法的に問われない借金が残る」ということです。
このように返済義務の消滅した負債のことを、「自然債務」と呼んでいます。
自然債務なんて中途半端なことをしなくてもよいのに……と思う人もいるかもしれませんが、このことには大きな意味があります。
免責を受けても借金それ自体がなくならないのであれば、「債務者の自由意思で債権者に返済する」ことが可能となるからです。
たとえば、家族や知人・友人からの借金があるときには「できれば迷惑をかけたくない」、「自己破産したとしても返したい」というケースも多いでしょう。
まさに自然債務というのは、このようなケースに「手続きが全部終わったあとなら返済するのは自由ですよ」という余地を残しておくという重要な意義を持っているのです。
免責の効果は、自己破産の対象となった借金すべてに及びます。
しかし、一定の借金(負債)については、免除の対象とすることが公平とはいえないものもあります。自己破産したとしても、債務者の義務を免除すべきではない債権のことを「非免責債権」といいます(免責許可決定が確定しても支払わなければならないということです)。
非免責債権については、破産法253条が規定を設けていますが、次の債権が該当します。
特に、税金・社会保険料・養育費・従業員の給料については、「免責されるかもしれない」と勘違いしている人も少なくないので注意が必要です。
個人の自己破産は、原則として「免責を前提」としています。
自己破産の手続きによって「可能な限りの財産を拠出させた」にもかかわらず、残った借金の返済を免除しなければ、逆に破産者にとってあまりにも酷だからです。
とはいえ、すべてのケースで「無条件に免責を認める」とすることも、債権者との関係では公平とはいえません。
そこで、破産法は、いくつかの具体的な事情に該当する場合には、「免責を与えない(免責不許可とする)」ことを定めています。
この破産法が定めている具体的な事情のことを「免責不許可事由」といいます。
免責不許可事由は、破産法252条1項1号から11号までに具体的に列挙されていますが、おおむね次のように整理することが可能でしょう。
わかりやすくまとめれば、「不誠実すぎる」債務者は免責しないということですが、以下で、具体的に解説していきます。
①債権者の権利を不当に侵害した場合
免責不許可となる事情の最初の類型は、「債権者の権利を不当に侵害した」という場合です。つまり、債権者に与えた迷惑の程度が大きすぎる(悪質すぎる)ときには、免責を与えることは公平ではないと考えるわけです。
破産法の条文には
が挙げられています。
特に、クレジットカードの現金化が免責不許可事由に該当することは、知らない人も少なくないと思います。また、いわゆる「自転車操業」も、場面によっては、自転車操業したことそれ自体が免責不許可事由に該当してしまうことがあります。
②破産者としての義務に違反した場合
破産者には、破産手続きに誠実に協力する義務があります。
たとえば、
といった行為が該当します。
最近の裁判所は、「破産手続きにきちんと協力しているか」ということを特に重視しているといわれています。したがって、借金それ自体に問題がない(浪費やギャンブルが原因ではない)ケースであっても、破産手続き・免責手続きでいい加減な対応をとれば、免責不許可となる可能性があることに注意しましょう。
なお、破産者としての義務違反の典型は、財産隠匿ですが、明確な財産隠匿は、破産詐欺罪が問われ、免責以前に破産手続きの開始が認められない可能性があります。
③免責の濫用は許されない(何度も免責してもらえるわけではない)
破産免責によって破産者の借金が免除されるということは、債権者の権利が犠牲になるということでもあります。
したがって、「真摯にやり直す意思があると思えない場合」にまで破産免責を与えるべきではありません。
また、「多額の借金を抱えても自己破産すれば免責される」と破産免責を安易に考える人が増え、モラルハザードが起きれば、社会的な損失にもなります。
そのような理由を背景に、次の場合には、免責不許可事由に該当することが定められています。
なお、小規模個人再生を利用した場合は、上記の免責不許可事由には含まれません。小規模個人再生では、「債権者の同意」を得て再生計画が認可されている点で、給与所得者等再生やハードシップ免責の場合とは違う扱いをして良いと考えられるからです。
免責不許可事由に該当している場合でも「免責がもらえない」、「自己破産できない」とあきらめる必要はありません。
免責の判断は、画一的・機械的に判断されるわけではないからです。そもそも、再チャレンジする機会を与えるべきかどうかという観点で、自己破産・免責制度をとらえたときには、「イチかゼロか」というデジタル的な発想は適切とはいえません。
道義的に問題のある借金を抱えてしまっている場合でも、その後の態度・気持ち・行動などから、借金を免除してやり直させてあげるべきだと判断すべきケースは少なくないからです。
そこで、破産法は252条2項において、免責不許可事由がある場合でも「裁判所の裁量」で免責を与えることを認めています。これを「裁量免責」と呼んでいます。
実際の自己破産事件では、免責不許可事由に該当するケースでも、よほどのことがない限りは、裁量免責が与えられるといわれています。
事実、日本弁護士連合会が2014年に行った個人破産事件の統計調査では、96.4%が免責許可決定を得ており、免責不許可決定となったのは0件でした。取り下げのケースは免責不許可の可能性が強かった可能性がありますが、2.75%に過ぎません。
免責不許可事由に該当するケースでは、「債務者(破産者)に財産が全くない場合」であっても、基本的に「管財事件」となります。
裁判所は、裁量免責を与えるときには、破産管財人に必要な調査・報告を行わせなければならないからです。
したがって、免責不許可事由に該当するケースでは、「予納金(20万円以上)」を工面する必要があります。
自己破産を考えている人にとって「免責を得られるかどうか」は最大の関心事です。
特に、浪費やギャンブルが原因で多額の借金を抱えてしまったという人には、「わたしは免責されないかもしれない」とあきらめてしまっている人もいるかもしれません。
しかし、免責不許可事由がある場合でも、裁量免責の可能性があるのであきらめる必要はありません。
それよりも「自己破産できない」と決めつけてしまって自暴自棄になってしまうことの方が問題です。
状況がさらに悪化すれば、ますます免責不許可となる可能性が高くなるばかりか、自己破産以外の手続きで借金を解決できる可能性も摘んでしまうからです。
借金の返済がつらいと感じたときには、できるだけ早く弁護士に相談することが、安全・確実に借金を解決するための一番の近道といえます。
個人の自己破産は、免責を得られなければ、自己破産をする意味がなくなってしまいます。
実際の自己破産でもほとんどすべてのケースで免責が認められていますが、100%というわけではありません。
いまの制度では、自己破産が認められなくても「個人再生」によって借金を解決させるというルートが作られたので、「免責ありき」で対応する必要性も減っています。
実際に、安易な自己破産が増加することによるモラルハザードを懸念する裁判官は増えているといわれています。
借金問題は、状況が悪化するほど、問題のある対応をしやすくなります。
免責不許可とならなくても、免責不許可事由を抱えれば、同時廃止にしてもらえなくなることで大きなデメリットが生じます。
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借金返済に完全に行き詰まったときであっても、「どうしても自己破産したくない」と考える方は実は少なくありません。一般の人にとっては、それだけ自己破産に悪いイメージがあるのだと考えられます。
また債務整理というと、自己破産を思い浮かべる人も多いため、債務整理それ自体に抵抗感を覚える人も珍しくありません。
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