債務整理 弁護士コラム
令和2年に、裁判所で新たに受け付けられた自己破産の件数は7万1678件(自然人が自己破産した件数)でした。(出典:司法統計令和2年第105表破産新受事件数-受理区分別-全地方裁判所より)
多くの方が自己破産をしていることがうかがえますが、自己破産をしてしまうと、学校帰りの子どもが「お前の父さん破産したんだろ!」といじめられてしまうのではないだろうか、または、身ぐるみはがされて家族に食事もさせられなくなるのではないか、というような心配をしていませんか。
一家の大黒柱が自己破産をしたとなれば、家族に迷惑がかかるに違いない……そんな思い込みから自己破産に踏み切れないという人は少なくないようです。
たしかに、多額の借金が返せなくなった状況では、色んなことに過敏になってしまうものです。また、自分の借金のために家族に迷惑をかけたくないという気持ちになるのも当然です。
しかし、「自己破産するとこんなデメリットがある」と思われているものには、思い込みや勘違いも少なくありません。
そこで、この記事では、
・自己破産したときに発生するデメリットと家族との関係
・家族に迷惑をかけたくなくてもやってはいけない行為
について解説していきます。
借金が返せなくなってしまい自己破産の相談をしたいけど、不安が消えないという人は参考にしてみてください。
自己破産すると、一定の財産を失ってしまう可能性があります。そのため、「自己破産すると家族の財産も没収されてしまうのではないか」と不安に感じている人もいるかもしれません。
しかし、自己破産をしても家族名義の財産を失うことはありません。
自己破産した際に差し押さえられるのは、「破産手続き開始決定の時点で、債務者(破産者)が所有している財産」に限られるからです。
なお、ケースによっては、「家族のものであるはずの財産」が差し押さえられてしまうこともあるかもしれません。すべてのものには名札などが貼り付けてあるわけではないので、一見すると債務者の財産のように見えてしまうものもあるからです。
そのようなときには、真の所有者である家族は、破産管財人に対して「取戻権」を行使することができますので、安心してください。
自己破産したときに差し押さえを受けることで、家族に迷惑をかける可能性が高い財産について簡単に確認しておきましょう。
マイホームを持っている人が自己破産をすれば、ほぼすべてのケースでマイホームを失ってしまいます。住宅ローンが残っている場合には債権者(ローン会社)によって、ローンが残っていないときには破産管財人によって差し押さえられ、返済(配当)に充てられてしまうからです。
なお、自己破産したことでマイホームを処分しなければならない場合でも、「任意売却」を行うことができれば、強制競売によるデメリット(売却額が安くなる、周囲に知られやすくなる、引っ越し時期を選べないなど)を小さくすることができます。
自己破産をした人に一定額以上の貯金がある場合には、貯金が差し押さえられてしまいます。貯金がなくなることで、生活面で不自由が生じることもあるかもしれません。
東京地方裁判所の場合、自己破産した場合に貯金が差し押さえられるのは、保有しているすべての口座にある貯金合計額が20万円を超えるときが基準となっています(申し立てをする裁判所によって運用が異なります)。
たとえば、A銀行に10万円、B銀行に7万円、C銀行に4万円というケースでは、銀行ごとの預金額は20万円を超えませんが、合計額が21万円となるので、すべての貯金が差し押さえの対象となります。
自己破産をする人が自動車を持っているときにも、差し押さえの対象となる可能性が高いといえます。
しかし、次のような場合には、自己破産をしても自動車を失わずに済む可能性が残されています。
自己破産した場合に自動車が差し押さえられるのは、東京地方裁判所の場合、その自動車の評価額が20万円を超える場合です(申し立てをする裁判所によって金額が異なります)。登録年月日から長期間経過している自動車であれば、すでに売却価値が20万円を下回っていることも多いでしょう(実務的には、登録から6~7年以上経過した自動車は資産価値なしと判断される場合が多いです)。
また、家族の介護に自動車が欠かせないといった事情があるときや、他の財産が少ない場合には、自動車の差し押さえを回避できる場合もないわけではありません(自由財産の拡張)。
自己破産した場合に自動車がどうなるかということは、個別のケースの事情に左右されることも多いので、弁護士に直接相談してみると良いでしょう。
家族が連帯保証人(連帯債務者)となっている借金を抱えているときには、自己破産することで、その家族に直接的な迷惑をかけてしまいます。
家族が連帯保証人(連帯債務者)となっている借金の例としては、次のものを挙げることができます。
これらの借金のある人が、自己破産をして借金を免責されたとしても、その効果は破産手続きを申し立てた債務者本人のみにしか生じません。
特に、住宅ローンや奨学金は、多額の借金残額が残る場合が多いので注意が必要です(連帯保証人も同時に自己破産しなければならないケースが多いです)。
自己破産を考える人のほとんどは、「家族に迷惑をかけることは避けたい」と考えるのが普通でしょう。 とはいえ、「家族に迷惑をかけたくないから」と次のような行為をすることは絶対にいけません。
「家族の財産が差し押さえられるのは困る」、「重要な財産を失って家族に迷惑をかけたくない」といった思いから、次のような行為をすることは、「財産隠匿」と判断されてしまう可能性があります。
自己破産の手続きは、借金を公平・平等に清算するための手続きです。したがって、債務者には、借金の免除(免責)を受ける代わりに、「できる限りの返済」をする義務があります。
その意味で、所有している財産を「裁判所に正しく申告しない」ことは、重大な背信行為に該当すると評価されてもおかしくありません。
財産隠しが悪質であると判断されたときには、「免責不許可」となる可能性がかなり高くなるだけでなく、「詐欺破産罪」に問われ刑罰を科されることもあり得ます。
なお、差し押さえの対象となる財産を、事前に他人に譲り渡す(安く売却する)行為も、財産隠し(財産減少行為)として破産手続きでは問題視されるので注意しましょう。
自己破産に追い込まれる人には、家族や親戚から借金がある場合も少なくありません。
自己破産をしたことで、好意でお金を貸してくれた家族や親戚に迷惑をかけたくないという思いがあっても、次のような対応をしてはいけません。
自己破産は、「すべての借金」を対象として手続きを行わなければなりません。金融機関ではない家族・親戚や知人からの借金も例外ではありません。
このような債権者だけを意図的に除いて債権者一覧表を作成・提出した場合には、免責不許可となる可能性があります。
また、「家族や知人に必要以上の迷惑・心配をかけたくない」という思いがあっても、自己破産(直)前に「特定の借金だけ」を返済することも問題となる場合があります。
特定の債権者のみに優先的に返済することは、「偏頗弁済(へんぱべんさい:不公平な返済のこと)」として、破産管財人による否認権行使の対象となるからです。
破産管財人による否認権とは、自己破産前に行われた「債権者の平等を害する行為」を事後に取り消すことをいいます。つまり、自己破産前に家族や知人に返済をすれば、破産管財人から「返してもらったお金の返還」を求められるということです。場合によっては民事訴訟を提起されることもあり、逆に余計な迷惑をかけることにもなりかねません。
自己破産しなければならない状況では、さまざまなことに不安を感じてしまいます。そのため、ちょっとしたウワサなどを信じてしまうことも少なくないようです。
たとえば、次のようなことは、自己破産したときのデメリットとしては必ずしも正しいとはいえません。
自己破産をしても、戸籍や住民票に記録が残ることはありません。
したがって、子どもの結婚・就職の際に、これらの帳票から「両親・家族の自己破産」が知られてしまうこともありません。
なお、本籍地の市区町村では「破産者ではないことの身分証明書」の発行を受けることができますが、この身分証明書は、戸籍・住民票とは別の帳票(破産者名簿)を基に発行されるものです。
ただし、破産者名簿に氏名などが記載されるのは、現在の運用では、免責不許可が確定した場合や、自己破産手続きが終了しても免責がすぐでないことが確実視されるような場合のみです(通常の自己破産では、破産者名簿にも何も記載されません)。
自己破産をしても、海外旅行・引っ越しができなくなることはありません。
たしかに、申し立てた自己破産が「管財事件」となった場合には、引っ越しや長期の旅行には「裁判所の許可」が必要となります。しかし、正当な理由のある引っ越し・旅行まで制限されることはないといえます。これらの制限は、「自己破産したことのペナルティー」ではなく、「裁判所・破産管財人の業務を円滑に進めるために、すぐに債務者に連絡が取れるようにしておく」必要があるからです。
また、引っ越しなどの制限は、いつまでも続くわけではありません。裁判所・破産管財人の調査が不要となった時点(通常は、破産手続き終了のとき)で解除されます。
なお、申し立てた自己破産が「同時廃止」となった場合には、財産などの調査を行う必要もないので、転居などの制限は一切生じません。
借金で困っていることは、誰にも知られたくないものです。自己破産で借金を解決したということを知られたくないのはなおさらです。
たしかに、自己破産をすれば、官報および裁判所の掲示板による「公告(氏名などの情報公開)」があります。
とはいえ、官報は普通の書店で売っているものではありませんし、日頃の生活で官報を見るということもまずありません。裁判所の掲示板も、他の事件の公告もたくさん掲示されていますし、わざわざ裁判所の掲示板の前で足を止めて「知り合いはいないか」と探す人もほとんどいないでしょう。
悪意を持って検索されない限りは、公告から自己破産したことが知られる可能性はほとんどないといえます。
「自己破産すると財産をすべて没収されてしまって家具も家電もなくなってしまう」という心配は完全に誤解です。
自己破産をした場合でも「生活していくために必要な財産」まで差し押さえられることはないからです。そもそも、生活に必要な一般的な家具・家電は、民事執行法という法律で差し押さえが禁止されています。
ただし、60インチの4Kテレビや売却すれば何十万円にもなる輸入家具のような「贅沢品」と評価できるものは、差し押さえの対象となりうるので注意が必要です。
自己破産した場合には、生命保険・学資保険の解約が問題となる場合があります。特に、既往症があったり、年齢の問題で、解約したら生命保険に再加入できない事情がある人にとっては、重要な関心事といえるでしょう。
しかし、自己破産をしても必ず保険を解約しなければならないというわけではありません。生命保険(学資保険も生命保険の一種です)の解約が問題となるのは、東京地方裁判所の場合、「20万円を超える解約返戻金」がある場合に限られます(申し立てをする裁判所によって金額が異なります)。
したがって、掛け捨ての死亡保険のように「解約返戻金」が存在しない保険は、自己破産しても全く影響ありません。
また、20万円を超える解約返戻金がある場合でも、
といった方法で、解約返戻金の差し押さえを回避できる可能性があります。
自己破産した際に生じると言われているデメリットは、必ずしもすべてのケースで当然に発生するというわけではありません。
また、一般の人が「自己破産でしか解決できない」と考えているケースでも、他の債務整理の方法で解決できるケースもあるかもしれません。
たとえば、住宅ローンの返済に行き詰まったという場合でも、個人再生で解決可能であれば、マイホームを手放すことなく借金を解決できる可能性が十分にあります。
借金問題は、早く対応した方が、解決の選択肢も広がり、デメリットを小さくできる可能性が高くなります。
その意味では、借金の返済が苦しいと感じたときには、できるだけ早く専門家に相談してみることがとても大切といえるでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、借金のご相談は無料で受けることが可能です。借金でお困りのことがある、不安なことがあるときには、ぜひお問い合わせください。
自分の自己破産で「家族に迷惑をかけたくない」のは、誰もが思う当たり前の感情です。
たしかに、自己破産しなければならない状況では、生活が苦しいことが原因で家族にも負担をかけている場合も多いでしょう。
しかし、自己破産した場合に生じる不都合は、原則として、自己破産を申し立てた本人にのみ生じます。
「こんな迷惑をかけるのでは」と不安に感じていることでも、思い過ごしにすぎないものも少なくありません。
また、早期に対応することで、生じる不都合の程度を軽くできる場合もあるかもしれません。
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借金問題は、誰にでも降りかかる可能性のあるトラブルのひとつです。夫婦が同時に多額の借金を抱えてしまうことも、珍しくありません。
夫婦とはいえ、金銭的な話をしていなかったことで、配偶者の借金に全く気付いていなかったというケースもしばしば見受けられます。
夫婦で多額の借金があると発覚してから、自己破産などの債務整理を検討している方もいるでしょう。借金は生活に関わってくる問題であるため、早期に正しく対応することが特に重要です。
本コラムでは、夫婦がそろって借金を抱えてしまった場合の解決方法と重要なポイントなどについて、ベリーベスト法律事務所 債務整理専門チームの弁護士が解説します。
最近では、共働き夫婦の増加により、お互いの財布事情に関知しない夫婦も珍しくありません。
そのため、妻に借金があることに気づいたときには、借金の額が手に負えないくらい膨らんでいて「自己破産以外に解決方法がない」と追い詰められてしまうケースもあります。
しかし同時に、自己破産をすると配偶者である自分や子どもに何かしらの悪影響が出るのではないか、と不安に感じる方もいるでしょう。
本コラムでは、妻の借金を自己破産で解決した場合に、家族に及ぶ影響について、ベリーベスト法律事務所 債務整理専門チームの弁護士が解説します。
借金返済に完全に行き詰まったときであっても、「どうしても自己破産したくない」と考える方は実は少なくありません。一般の人にとっては、それだけ自己破産に悪いイメージがあるのだと考えられます。
また債務整理というと、自己破産を思い浮かべる人も多いため、債務整理それ自体に抵抗感を覚える人も珍しくありません。
しかし、債務整理の方法は自己破産だけではなく、財産を処分せずに今後の分割払いの負担を軽くしてもらうことで借金を解決するものもあります。
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