債務整理 弁護士コラム
別除権とは、日常生活で使われる言葉ではありませんが、担保付きの借金を抱えている方が自己破産または個人再生をするときには知っておく必要があるものです。
一定の担保権は、自己破産や個人再生の手続きとは無関係に行使されます。そのため、債務者は担保に入れた物を失ってしまう可能性が高いのです。
本コラムでは、別除権とは何か、別除権を行使されると具体的にどうなるのか、担保に入れた物を失わずに借金を整理するにはどうすればよいのかについて、ベリーベスト法律事務所 債務整理専門チームの弁護士が解説します。
最初に、別除権の意味や内容、種類について解説します。
別除権とは、破産または民事再生(個人再生を含む)をした債務者の財産に対して一定の担保権を有する債権者が、他の債権者よりも優先的に、担保権を設定した財産から債権を回収できる権利のことです(破産法第2条9号、民事再生法第53条1項)。
もともと担保権は、債務者が債務を支払えなくなった場合に備えて設定されます。債務者が自己破産や個人再生をしたからといって権利を行使できなくなるのでは、担保権を設定する意味がありません。
そこで、担保権の中でも目的物から直接債権を回収できる種類の権利を有する債権者には、別除権が認められているのです。
別除権は、破産や再生の手続きによらずに行使できるとされています(破産法第65条1項、民事再生法第53条2項)。原則としては、債権者は破産の場合は配当手続きにより、再生の場合は再生計画に基づく返済により、債権を回収できるに過ぎません。
しかし別除権を有する債権者は、これらの手続きとは無関係に、担保権の目的物を換金処分するなどして債権を回収することができます。
別除権として認められる担保権は、以下のものに限られます(破産法第2条9号、民事再生法第53条1項)。
別除権の種類 | 権利の内容 |
---|---|
特別の先取特権 | 債務者の特定の財産から優先的に弁済を受けられる権利。動産先取特権、不動産先取特権、マンション管理の先取特権の3種類がある。債務が支払われない場合、債権者は目的物を換金処分して債権の回収に充てることができる。 |
質権 | 債務者から特定の物を預かり保管し、債務が支払われない場合は目的物を換金処分して債権の回収に充てることができる権利。 |
抵当権 | 目的物を債務者の手元に置いたまま設定する担保権。債務が支払われない場合は、目的物を換金処分して債権の回収に充てることができる。住宅ローンの債権者が住宅に設定するケースが典型例。 |
商事留置権 | 留置権とは、他人の物を占有する人が、そのものに関して生じた債権を有する場合に、その弁済を受けるまでその物の引き渡しを拒否できる権利のこと。商事留置権とは、当事者双方が事業者の場合で、事業に関して生じた留置権のことをいう。 破産法では、商事留置権は特別の先取特権とみなされ、債権者は目的物を換金処分して債権の回収に充てることが可能。 民事再生法では、商事留置権は特別の先取特権とみなされないが、当事者間の合意内容によっては特別の先取特権と同様に、債権者が目的物を換金処分して債権の回収に充てることが可能なこともある(最高裁判所平成23年12月15日判決)。 |
所有権留保 | 売買の目的物を買い主に引き渡した後も、代金を完済するまでは所有権を売り主に留め置くもの。代金が支払われない場合、売り主は所有者として目的物を換金処分して債権の回収に充てることができる。 |
譲渡担保権 | 債権を担保するために債務者の財産の所有権を債権者に譲渡し、完済後に債務者へ戻すもの。支払いが行われない場合、債権者は目的物を換金処分するなどして債権の回収に充てることができる。 |
所有権留保と譲渡担保権は法律には規定されていませんが、債権者が所有権を取得する担保形態であることから、実務上は別除権と同様に取り扱われています。
債権者に別除権を行使されるということは、元の担保権を実行されるということです。そのため、債務者は目的物を失ってしまいます。
担保の目的物が債務者の手元にある場合、債権者によって目的物が差し押さえられることがあります。たとえば、住宅ローンの滞納が続いた場合、抵当権を有する債権者が競売を申し立てると、競売の前提として住宅が差し押さえられます。差し押さえを受けると、債務者が目的物を自由に処分することはできません。
住宅の抵当権者は目的物の所有権を有しているわけではないので、自由に売却することはできません。実務上は、債務者が住宅を維持できないと判断した場合には任意売却を行うことが多いですが、債務者が売却に応じない場合は競売にかけられます。競売で買受人が現れると、債務者は強制的に立ち退きを迫られます。
ローンの返済が残っている自動車やリースで借りたものには、所有権留保が付いています。そのため、ローン会社やリース会社が別除権者となり、目的物を引き揚げて売却します。債務者が引き渡しを拒否した場合は、差し押さえられて強制的に売却されます。
個人再生では、「別除権協定」を結ぶことができれば、別除権の行使を回避することが可能です。ここからは、別除権協定についてご説明します。
別除権協定とは、債務者が別除権者に対して相当な金額を支払う代わりに、別除権者は別除権を行使しないという合意のことです。別除権が行使されなければ、債務者は目的物を手元に残すことができます。
別除権協定を結ぶためには、別除権者が納得するだけの金額を支払わなければなりません。基本的には目的物の評価額を支払うことになりますが、ローン残高全額を支払わなければ、別除権者が納得しないこともあります。また、別除権者が分割払いに応じるとも限りません。別除権者と丁寧に交渉して、支払い可能な内容で合意することが重要です。
別除権者と合意ができても、裁判所の許可を得なければ別除権協定は有効とはならない点に注意が必要です。別除権者へ優先的に支払いをすることは他の債権者の利益にも影響を及ぼすため、裁判所の許可を得ることは容易ではありません。実務上は、目的物の維持が生活のための仕事に必要不可欠な場合などでなければ、裁判所から許可されないのが実情です。
自己破産や個人再生で別除権者がいるけれど、担保の目的物を失いたくない場合には、以下の方法が現実的な対処法となります。
住宅ローンを返済中の場合は、個人再生で「住宅ローン特則」を利用することが有効です。一定の条件を満たせば、他の借金のみを減額して住宅ローンだけは従来どおりに返済することが認められます。そのため、抵当権の実行を回避して住宅を残すことが可能です。
別除権者の債権額にもよりますが、個人再生では、申し立て前に一括返済をすることで担保の目的物を残せる可能性があります。
ただし、この方法は「偏頗弁済」に該当するため、一括返済した金額が清算価値に加算され、個人再生による返済額が高額化する可能性があることに注意が必要です。たとえば、申し立て前に500万円を一括返済すると、最低でも500万円の財産を保有しているものとみなされます。個人再生による返済額が500万円だとすると、5年払いが認められたとしても毎月の返済額は8万3000円以上となります。
住宅を残す方法としては難しいケースが多いですが、自動車を残す方法としては検討に値することも多いでしょう。
任意整理では、自己破産や個人再生とは異なり、担保権を有する債権者を除外して手続きすることができます。担保権が付いている債務を従来どおりに返済していけば、担保権を実行されることはありません。
ただし、任意整理では原則として元金の減額はできないため、返済の負担を大幅に軽減するのは難しいことに注意が必要です。どうしても任意整理で解決したい場合は、返済に協力してくれる親族等がいないかも検討してみるのもよいでしょう。
抵当権や所有権留保など一定の担保権を設定している際に、自己破産または個人再生をすると、基本的には別除権を行使されて目的物を失ってしまいます。
しかし、別除権の行使を回避しつつ借金を整理する方法もいくつかあるため、弁護士に相談の上でこれからの借金の対応を検討していきましょう。
ベリーベスト法律事務所にご相談いただければ、別除権について分かりやすくご説明した上で、最適な解決方法を提案いたします。債務整理に関するご相談は何度でも無料となっておりますので、借金のことでお困りの際は、当事務所へお問い合わせください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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借金の支払遅延が生じたり、債務整理が行われたりすると、個人信用情報機関に「異動情報」が登録されます。
異動情報が登録されるとさまざまなデメリットが生じるため、債務整理を行う前に注意点を理解しておきましょう。
本記事では、債務整理などによって登録される異動情報について、ベリーベスト法律事務所 債務整理専門チームの弁護士が解説します。
「自分は買い物依存症かもしれない」と感じている人は少なくはありません。買い物が大好きな人や、買い物に出かけるとつい買いすぎてしまう方は買い物依存症の不安を抱えていることでしょう。
ですが、ショッピング好きと買い物依存症は違います。買い物依存症の場合には中毒症状があるため、治療が必要な状態。対して買い物好きの人は買い物が趣味なだけで買い物に依存しているわけではありません。
買い物依存症の患者数は正式には発表されていませんが、昨今の後払いシステムやクレジットカード払いの増加によって患者数も増加していると推定されています。買い物依存気味の方は早めに自覚し、適正な対処をしていきましょう。
ソーシャルゲーム(ソシャゲ)などのスマホゲームで、多額の課金をしてしまう方は少なくありません。
「今回だけ…」とおそるおそる少額で始めたはずの課金も、いつも間にか抵抗がない状態に陥っている方も多いのではないでしょうか。
スマホゲームの課金は、一種の中毒症状をもたらします。「やめよう」と思っても、自分の意思では上手にコントロールできないものです。
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廃課金とよばれるような過度な課金は、日常生活にも支障をきたす恐れがあります。できるだけ早めに課金をコントロールしたり、借金問題を解決したりして、通常の生活に戻していきましょう。