債務整理 弁護士コラム
親が借金を残して亡くなり、その返済を請求されてお困りの方も少なくないことでしょう。こんなときは相続放棄をすれば、返済する必要はなくなります。
しかし、相続放棄をしても借金がなくなるわけではなく、誰が払うのかという問題が残ります。ご自身が相続放棄をしたことで、疎遠だった親戚に借金を相続させてしまい、トラブルに発展することは珍しくありません。また、相続放棄ができない、またはしたくないけれど、親が残した借金は支払えないというケースもあることでしょう。
本コラムでは、親の借金を子どもが相続放棄した場合、誰が支払うことになるのかについて解説します。併せて、ご自身に支払義務があるものの、支払えない場合の対処法も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
まずは、相続放棄について基本的な事柄を解説します。
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産の承継を全面的に拒否することです。相続放棄をすると、その相続に関しては、初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法第939条)。
親が亡くなった場合、相続放棄をした子どもは相続人ではなくなるため、親の借金を引き継ぐことはありません。したがって、親の借金を返済する義務はなくなります。
相続放棄をすると、借金などマイナスの相続財産だけでなく、プラスの相続財産も一切、相続できなくなります。相続放棄をした後は原則として撤回できないため(民法919条1項)、後でプラスの相続財産が見つかっても受け取れないことに注意が必要です。
相続放棄をするためには、相続開始を知ったときから3か月以内に手続きをする必要があります(民法915条1項)。相続財産の一部でも処分したり消費したりすると相続したことになるため(民法921条)、3か月以内であっても相続放棄ができなくなることにも注意しましょう。
子どもが相続放棄した場合に、親が残した借金を誰が支払うことになるのかは、次のようにケースによって異なります。
相続人の一部が相続放棄をした場合には、次の順位の相続人に相続権が移るため、借金の返済義務も移ります。
たとえば、父親が借金を残して亡くなり(母親はすでに死亡)、子どもが相続放棄をした場合、祖父母がいれば祖父母が借金を支払うことになります。
祖父母もすでに亡くなっているか、相続放棄をした場合は、父親に兄弟姉妹がいれば兄弟姉妹に借金の返済義務が移ります。
被相続人の借金に連帯保証人が付いている場合は、連帯保証人が返済義務を負います。
たとえば、夫が借りた住宅ローンで妻が連帯保証人となっている場合、夫が亡くなると妻が残りのローンを返済しなければなりません。連帯保証債務は債権者と連帯保証人との契約に基づく負債なので、相続放棄をしても連帯保証人の返済義務はなくならないのです。
相続人全員が相続放棄をすれば誰も借金を相続しませんが、相続財産を清算しなければなりません。この場合には、家庭裁判所で相続財産清算人が選任されます。
相続財産清算人は、被相続人にプラスの財産があれば換金し、債権者に対して公平な割合で分配します。それでも借金を支払いきれなかった場合、借金は消滅します。
相続人全員が相続放棄をした場合には、相続財産の清算手続きについて次の3つのことを知っておいた方がよいでしょう。
相続財産清算人を選任してもらうためには、家庭裁判所への申し立てが必要です。相続人が申し立てない場合には、他の利害関係人(被相続人の債権者など)または検察官が申し立てることがあります(民法952条1項)。
ただし、相続放棄をした人は、相続財産を清算人に引き渡すまでの間、その財産の管理責任を負うことがあります(民法940条1項)。管理が不十分であれば損害賠償責任を負う可能性もあるので、できる限り、相続放棄をした人の中から誰が申し立てることが望ましいといえます。
被相続人と近い関係にあった人(配偶者、子ども、親など)による申し立てが望ましいですが、親族でよく話し合って決めるとよいでしょう。
家庭裁判所への申し立て費用は、基本的には申立人が支払います。ただし、誰が支払うべきといった決まりはないので、親族で話し合って分担して負担するのもよいでしょう。
なお、申立て時にかかる費用は、通常、1万円~2万円程度です。
相続財産清算人の報酬も必要ですが、これは原則としてプラスの相続財産の中から支払われるので、通常は相続人が負担する必要はありません。しかしながら、相続財産の金額が、相続財産清算人の報酬や経費に対して不足する場合、家庭裁判所は、申立人に対し、予納金の納付を求めることがあります。
一般的な予納金の相場は、数十万円~100万円程度になることが多いので、注意が必要です。
被相続人の借金を完済してもプラスの財産が残った場合、その財産は国のものになります(民法第959条)。相続放棄をした以上は、最終的にプラスの相続財産が残ったとしても受け取ることはできません。
相続放棄をしたくても、申立期限を過ぎてしまったような場合にはできません。また、自宅など引き継ぎたい財産があるため、相続放棄をしたくないということもあるでしょう。
相続放棄をしなければ被相続人の借金を承継してしまいますが、その借金を払えないときには、次の対処法が考えられます。
相続人自身の収入や財産だけで返済ができなければ、相続した財産を借金の返済に充てることを検討するとよいでしょう。どうしても手元に残したい財産を除いて換金して債権者に支払えば、返済の負担が軽くなるはずです。
なお、「限定承認」という手続きを行えば、プラスの相続財産の評価額を超える借金を返済する必要はなくなります(民法第922条)。相続放棄をしたくない場合には、限定承認も検討してみるとよいでしょう。
なお、限定承認をするためにも、相続放棄と同様に、相続開始を知ったときから3か月以内に手続きをする必要があります(民法915条1項、同法924条)。
相続した借金をどうしても返済できないときは、債務整理が有効な手段となります。債務整理には、主に次の3種類があります。
任意整理は、基本的に残元金を3~5年で完済する必要があるため、多額の借金を相続した場合にはあまり向いていません。しかし、財産を処分する必要がないので、相続した自宅を維持して借金を整理することが可能です。住宅ローンを支払うようなつもりで任意整理をし、残元金を支払っていくのもよいでしょう。
個人再生でも基本的に財産を処分する必要はありませんが、高価な財産がある場合は返済額が大きくなる可能性があります。そのため、相続した自宅を個人再生によって維持することは難しいのが実情です。とはいえ、借金を5分の1~10分の1程度にまで減額できるという大きなメリットがあります。多額の借金を相続した場合でも、相続人に安定収入があれば、個人再生で解決できる可能性が高いといえます。
自己破産では、高価な財産を処分する必要があるため、相続した自宅を残すことはできません。しかし、一定の条件を満たせば借金の返済義務がすべて免除されるので、収入が少ない人や無収入の人も自己破産をすれば借金問題を解決できます。99万円以下の現金と、その他の財産で評価額20万円以下のものは手元に残せるので、自己破産をしても生活に支障をきたすことはありません。
相続した借金だけでなく、自分で借りた借金がある場合も、債務整理でまとめて解決できます。返済できない借金を抱えて悩んでいるだけでは、債権者からの督促が繰り返され、最終的には財産を差し押さえられることもあります。借金の返済が苦しいときは、早めに債務整理を検討し、状況に合った手続きを選んで行う方がよいでしょう。
相続放棄をすれば親の借金を払う必要はなくなりますが、次の順位の相続人がいれば、その人が払うことになります。相続人全員が相続放棄をしたとしても、相続財産の清算という問題が残ります。
このように、親が借金を残して亡くなった場合には、さまざまなことを考えなければなりません。スムーズに問題を解決するためには、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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『旦那や家族には言っていないけど、実は私、借金を抱えてます…』
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これから債務整理をしようと考えている方の中には、債務整理後にキャッシングできるのか、債務整理中にお金が足りなくなったときキャッシングを利用することは認められるのかと、お悩みの方もいるのではないでしょうか。
結論から言うと、債務整理をしたことで、キャッシングなどを法律で禁止されるわけではありません。
しかし、債務整理をすると信用情報に事故情報が登録される(ブラックリスト入りする)ので、ほとんどの金融機関は、融資に応じてくれなくなります。
親子であっても、他人の借金を返済する義務は原則としてありません。肩代わりするかどうかは、基本的に子ども自身の判断で自由に決められます。
しかし親の借金でも子どもに返済義務が生じることがあり、借金を放置すると子どもが差し押さえを受けることにもなりかねません。
本コラムでは、親の借金が降りかかってきた場合に、子どもはどのように対処すればよいのかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。