債務整理 弁護士コラム
お金を借りた債務者本人に代わって、第三者が借金などの債務を返済するケースがあります。このような第三者弁済が行われるケースは少なくありませんが、あらゆる場合に第三者弁済が有効となるわけではありません。
また、第三者が弁済する場合であっても、民法上の「第三者弁済」には該当しないことがあります。第三者弁済に当たるケースとその他のケースの違いについて、知っておいたほうがよいでしょう。
なお、第三者弁済が有効に行われると債権者は満足しますが、弁済した第三者と債務者との間には債権・債務関係が残ることに注意が必要です。
本コラムでは、第三者弁済とは何か、第三者弁済が有効となるための要件、さらには弁済した第三者による「代位」について、ベリーベスト法律事務所 債務整理専門チームの弁護士が解説します。
第三者弁済とは、自ら債務を負っていない第三者が債務者に代わって債務を弁済することです。
そもそも債務の弁済とは、その債務の本旨に従って義務を果たすことをいいます。たとえば、1000円の本を購入する場合、「書店に1000円の金銭を支払うこと」が債務の本旨です。書店にとっては、誰であっても1000円を支払ってもらえれば利益を確保できます。
このように、債務の弁済は第三者が行っても差し支えないことが多いため、民法は原則的に第三者弁済を有効なものとして認めています(同法第474条1項)。
ただし、ここで指す「第三者」とは、その債務について法律上の利害関係を有しない第三者です。上記の本を購入するケースの他には、子どもの借金を保証人ではない親が返済するケースが挙げられます。保証人には法律上の利害関係があるため、保証人が弁済しても「第三者弁済」には当たりません。
第三者弁済は多くの場合、債権者・債務者の両方にとって利益となる行為ですが、まったく利害関係のない第三者が勝手に弁済できるのかという問題があります。そこで民法では、以下の3つのケースでは第三者弁済ができないものと定めています。
債務者が第三者に弁済されることを望まない場合は、その債務の弁済について正当な利益を有しない第三者による弁済は認められません(民法第474条2項本文)。
ここで指す「正当な利益」とは、法律上の利害関係のことです。借金の保証人の他、他人の借金の担保として自分の不動産に抵当権を設定した物上保証人、抵当権が付いた不動産を購入した第三取得者などは、正当な利益を有する第三者に当たります。
一方で、債務者の家族、その他の親族、友人などは事実上の利害関係はあるとしても、法律上の利害関係はないので、正当な利益を有する第三者には当たりません。たとえば、借金をした子どもが「自分で責任を持って返済するから親は手出ししないでほしい」というような場合、親は第三者弁済ができないことになります。
ただし、債務者の一存で第三者弁済が有効となったり無効となったりすると、債権者の立場が不安定になってしまいます。そこで、債務者の意思に反する第三者弁済でも、そのことを債権者が知らなかった場合は有効とされています(同項ただし書き)。
正当な利益を有しない第三者は、債権者の意思に反する場合も第三者弁済を行うことができません(同条3項本文)。
たとえば、債務者の知人と名乗る人物が債権者のところにやって来て、債務者の借金を代わりに支払うといっても、債権者は戸惑うこともあるでしょう。このような場合、債権者は支払いの受け取りを拒むことができます。
しかし、債務者が知人などに頼んで借金を支払いに行ってもらうことも一般的に認めてよいはずです。そこで、第三者が債務者から委託を受けて弁済することを債権者が知っている場合には、第三者弁済が認められます(同項ただし書き)。
この場合、債務者としては、事前に債権者に対して知人が支払いに行くことを連絡しておくか、委任状を作成して知人に持参させることになるでしょう。
債務の性質上、債務者本人が義務を果たさないと意味がない場合にも、第三者弁済は許されません(同条4項)。たとえば、有識者が講演の依頼を受けたとして、その本人が講演をしなければ依頼した目的を果たせない場合は、第三者に講演をさせることはできません。
ただし、債務者本人による義務の履行に意味があるかどうかは債権者が判断することなので、債権者が承諾すれば第三者弁済も可能です。この場合には、「債務の性質上、第三者弁済が許されない場合」には当たらないということもできます。
実際にも、雇用契約において労働者は、使用者の承諾を得れば第三者に労働を代わってもらうことが認められています(同法第625条2項)。
第三者が債務者に代わって債務を弁済する場合でも、以下の3つのケースは第三者弁済とは異なります。第三者弁済の場合と弁済が有効となるための要件が異なるため、区別して理解しておくことが大切です。
たとえば、親が子どもの借金を返済するために直接債権者へ支払うのではなく、子どもに返済資金を渡し、子どもが債権者へ支払ったとします。この場合、弁済者は親ではなく子ども自身なので、第三者弁済には当たりません。
そのため、債権者は子どもからの支払いを債務の本旨に従った弁済として受領することが可能です。資金を親が提供したことを知っていたかどうかによって、弁済の有効性が左右されることもありません。
保証人は保証債務という自己の債務を負っているため、主債務の弁済について正当な利益を有しています。したがって、保証人が主債務者に代わって弁済することは第三者弁済に当たりません。
たとえば、親が子どもの借金の保証人となっている場合だと、子どもが借金を返済できなければ親が債権者から請求を受けてしまうため、親は子どもの借金を返済することについて正当な利益があります。そのため、保証人は主債務者の意思に反してでも、弁済することが可能です。
債権者の意思に反することは考えがたいですが、仮に債権者の意思に反するとしても弁済することができます。
第三者弁済は、他人の債務を自己の債務ではないと知りながら弁済することを指すため、第三者が「他人の債務を自己の債務である」と勘違いして弁済した場合も、第三者弁済には当たりません。
たとえば、兄に対する借金の請求書が自宅に届き、それを受け取った弟が自分の借金の請求書だと思い込み返済した後、兄に対する請求書であったことに気付いたとします。この場合、弟は第三者弁済をしたことにならず、返済したお金は債権者の不当利得となります。したがって、弟は債権者に対して返還を請求できるのが原則です(民法第703条、第704条)。
しかし、この原則を貫くと、債権者が不測の損害を被るおそれがあります。そのため、弟が返済したことを債権者が知らずに借用証を廃棄したり、担保を放棄したり、時効で兄に対する債権を失った場合には、弟は債権者に対して返還請求ができないものとされています(同法第707条1項)。弟としては、兄に対して求償することになります(同条2項)。
なお、第三者弁済では自己の債務でないことを知りながら弁済しているため、そもそも債権者に対する不当利得返還請求は認められません。
第三者弁済が有効に行われた場合、債権・債務は以下のようになります。
第三者が弁済として提供したものを債権者が受領すれば、債権は消滅します。これにより、債権者と債務者との間の法律関係はなくなるのです。
他人の債務を有効に弁済した第三者は、弁済のために支出した財産の額の範囲内で、債権者が有していた権利を債務者に対して行使できるようになります(民法第499条)。このことを「弁済による代位」といいます。
たとえば、主債務者が銀行からお金を借りて連帯保証人を付けるとともに、自宅に抵当権を設定していたとします。この場合、連帯保証人が銀行に借金を全額返済すれば、返済した金額の範囲内で主債務者に対して支払いを請求できるとともに、抵当権を実行して強制的に金銭を回収することも可能となります。
ただし、第三者弁済の場合は、「債権者から債務者に対する通知」または「債務者の承諾」がなければ、弁済による代位を債務者その他の第三者に対抗することができません(同法第500条、第467条)。
したがって、債務者としては勝手に第三者に弁済されたとしても、債権者からの通知を受けるか自分で承諾しない限り、弁済した第三者から代位請求を受けても支払いを拒むことが可能です。
親が子どもの借金を第三者弁済として返済するような場合は、あまりトラブルが発生する心配はありません。
しかし、第三者弁済にもさまざまなケースがあるため、場合によっては弁済が無効となったり、弁済した第三者と債務者との間でトラブルが発生したりするおそれもあります。
万が一、トラブルに巻き込まれた場合は、感情的に対応せず、弁護士に相談のうえで適正に対処していきましょう。
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