債務整理 弁護士コラム
最高裁判所の統計によると、令和3年に新たに自己破産を申請し、裁判所に受理された人は6万8240人でした。
(出典:令和3年司法統計第105表)多くの方が自己破産を申請していますが、その一方で自己破産をすると、借金がゼロになる代わりに財産を処分しなければなりません。ブラックリストに登録され、ローンを組むことが難しくなるという制約もあります。
これらの制約のために、自己破産をすると携帯電話(以下携帯)を持てなくなるのではないかと気になる方も多いことでしょう。
携帯を解約されるのではないか、新たに契約もできなくなるのではないかと不安になり、多額の借金があるのに自己破産に踏み切れない方もいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、
・自己破産をすると携帯を解約されてしまうのか
・自己破産後に携帯の契約を新たにすることはできるのか
・携帯について自己破産前に注意するべきポイントとは
といったことを解説していきます。
自己破産をしても携帯(スマホ)を持てるか、今すぐ知りたいという方はこちらの動画をご覧ください。
結論から言いますと、自己破産をしても携帯を持つことは可能です。自己破産したからといっても、それだけで携帯を解約されることは基本的にありません。
とはいえ、自己破産をするなら携帯料金の支払いはストップしなければならないのではないか、端末は処分しなければならないのではないかといった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、以下の理由でそのような心配はいりません。
たしかに、自己破産を申し立てる前や自己破産手続き中は、一部の債権者のみに支払いを行ってはならないとされています。
もし、一部の債権者のみに支払いを行ってしまうと、「偏頗(へんぱ)弁済」として免責不許可事由に該当してしまい、借金が免除されないおそれがあります。
しかし、上下水道代や光熱費、家賃などのような生活に必要なサービスの対価を支払うことは問題ありません。携帯料金も生活に必要なサービスの対価に含まれると考えられています。
したがって、自己破産前から自己破産後まで、携帯料金を毎月支払っても「偏頗(へんぱ)弁済」にはあたりません。滞納なく携帯料金を支払っている限り、携帯を解約されることはありません。
自己破産をすると高価な財産は処分する必要がありますが、一定額(一般的に約20万円)以内の財産は処分する必要がありません。
本来なら破産をした人は全財産をお金に替えて債権者に配当し、それでも残った負債を免除してもらうべきところですが、破産者も生活をしていく必要があります。そのため、一定額以内の財産は「自由財産」として手元に残しておくことが認められているのです。
最近のスマホ端末は高額なものもありますが、数十万円もするものはまずないでしょう。したがって、自己破産をしても端末を処分する必要はなく、そのまま使い続けることができます。
基本的には、自己破産しても手持ちの携帯を使い続けることができますが、場合によっては携帯が解約される場合もあります。それは、以下のようなケースです。
上記1(1)で自己破産をする場合でも携帯料金を毎月支払うことは問題ないとご説明しましたが、それはあくまでも利用料金の滞納がない場合です。
滞納料金がある場合は、それが債務となり携帯電話会社も「債権者」となりますから、貸金業者など他の債権者と平等に扱わなければなりません。
つまり、携帯の滞納料金だけを優先して支払うことはできず、滞納した状態のまま自己破産手続を行う必要があります。
自己破産が無事に終わって免責が許可されると携帯の滞納料金の支払いも免除されますが、携帯電話会社は滞納料金を支払わない利用者については強制解約してしまいます。
実際には、多くの携帯電話会社は滞納が発生してから2~3か月で強制解約するので、自己破産申立ての準備中か手続き中に解約されてしまうケースがほとんどです。
携帯の端末代金を分割払いしている方も多いと思いますが、端末代金の未払いが残っている状態で自己破産をすると、携帯を解約される可能性があります。
なぜなら、端末代金を分割払いしている間、携帯電話会社は「債権者」だからです。
したがって、やはり端末代金だけを優先して支払うことはできず、未払いが残った状態のまま自己破産手続をしなければなりません。
端末代金の分割金は、通常、携帯の利用料金と一体となって月々の支払額が決められています。
そのため、自己破産手続のために端末代金の分割払いを止めると、利用料金を滞納した場合と同様に携帯電話会社から解約されてしまいます。
自己破産したために携帯を解約されるのは以上の2つのケースですが、これらのケースに該当する場合は家族の携帯まで解約されることもあるので注意が必要です。
家族がいらっしゃる方なら、ご主人が契約者となって奥さんやお子さんが使う携帯も契約している場合があるでしょう。
このような場合に契約者である夫が自己破産をすると、メインの契約が解約されてしまうため、家族が使っている携帯も解約扱いとなってしまいます。
なお、このケースでご主人ではなく奥さんが自己破産をする場合で、料金と端末の分割代金もご主人が支払っている場合は携帯を解約されることはありません。
自己破産を考えている方の中には、携帯の利用料金を滞納している方や、端末代金を分割で支払い中の方も少なくないことでしょう。
そんな方々は、自己破産によって携帯を解約されることはやむを得ないとしても、自己破産後に改めて携帯の新規契約をすることはできるのでしょうか。
一般的に携帯の利用料金を滞納したままにしていると、他社の携帯であっても新規契約することはできません。
多くの携帯電話会社はTCA(電気通信事業者協会)という機関に加盟しています。携帯の利用料金を滞納すると、その情報はTCAに登録され、加盟している携帯電話会社の間で情報が共有されることになります。
そのため、滞納の情報がTCAの保有情報から消去されない限り、新規契約をすることは難しいのです。
この状態は、借金の返済を滞納したときに信用情報機関にブラックリストとして登録されて新たな借り入れやローンを利用することが難しくなる状態に似ていることから「携帯ブラック」と呼ばれています。
滞納料金を完済すれば携帯ブラックは解消されますが、自己破産をした場合は免責許可決定が確定したときに携帯ブラックが解消されます。
したがって、自己破産手続き中、新規契約はできませんが、免責許可決定が確定すれば新規契約できるようになります。
ただし、どこの携帯電話会社もTCAの保有情報とは別に、自社の顧客データを保有しています。そのため、過去に利用料金を滞納して自己破産で免責されたというデータが残っている人に対しては、新規契約を断る可能性があります。
よって、滞納した携帯と同じキャリアの携帯に新規契約を申し込んだ場合は
などの選択肢を求められるかもしれません。
利用料金の滞納があってもなくても、自己破産をすると端末の分割購入は難しくなります。
端末の分割購入は一種のローンなので、契約の際に携帯電話会社はTCAではなく、CICという信用情報機関に登録されている情報を参照します。CICには、借金やローン、クレジットカードなどの利用歴に関する情報が個人ごとに登録されています。
自己破産をするとCICに事故情報が登録されるため、その後は借金やローン、クレジットカードなどを利用することが難しくなります。この状態のことが「ブラックリスト」に登録されたと言われる状態です。
自己破産による事故情報は、約10年間は消去されません。したがって、自己破産後は約10年間、携帯端末を分割購入することは難しいでしょう。
自己破産後に携帯の新規契約をするときは、それまで使っていた端末を利用するか、機種変更をするなら一括払いで購入できる機種や中古品を探すか、家族など第三者に代金を支払ってもらう必要があります。
自己破産をして免責を受けると携帯の新規契約はできるはずですが、あくまでも契約できるかどうかは携帯電話会社の判断次第となります。
滞納額や過去に滞納した頻度などによっては、契約を断られる可能性もゼロではありません。また、自己破産後の生活が厳しいために滞納してしまい、携帯ブラックに陥ってしまうこともあるかもしれません。
このような事情で携帯の新規契約を断られた場合は、どうすればいいのでしょうか。
●預託金制度を利用する
預託金制度とは、携帯電話会社にある程度まとまった金額を預けた上で携帯の新規契約をする制度のことです。
利用料金の支払いに不安がある人など一定の事由に該当する場合、携帯電話会社は最初に預託金としてお金を預かり、未払いが発生したときには預託金の中から回収します。解約時に残金があれば、返金されます。
ただ、預託金制度は全ての携帯電話会社が導入しているわけではありません。大手キャリアの中ではドコモとauで導入されています。どちらも、最大10万円の範囲内で携帯電話会社が指定した金額を預けた上で契約することになります。
預託金制度を利用できるかどうかも携帯電話会社の判断次第にはなりますが、5万円~10万円程度の預託金を用意できるのであれば、問い合わせてみるといいでしょう。
●格安SIMを利用する
ドコモやau、ソフトバンクといった大手の携帯電話会社はTCAに加盟しているため、携帯ブラックの状態では新規契約はできません。
しかし、格安SIMの会社の中にはTCAに加盟していないところもあります。そのような会社であれば、新規契約できる可能性があります。
ただし、格安SIMの携帯の場合は利用料金の支払いがクレジットカードのみとしているところが多いことに注意が必要です。
自己破産をした場合にはブラックリストに登録されるためにクレジットカードを利用することは難しいですが、デビットカードは利用できます。
デビットカードとはクレジットカードとは異なり、利用すると即時に銀行の残高から引き落とされるカードのことです。銀行の残高の範囲内でしか使えないため、ブラックリストに登録されている人でもデビットカードの利用はできるのです。
携帯の利用料金を抑えたい方には、格安SIMの利用を検討するのがおすすめです。ただし、デビットカードではなく、クレジットカードしか利用できない業者もあるかもしれないので、その点は事前に確認しておきましょう。
●家族の名義で契約する
家族がいらっしゃる方であれば、家族の名義で新規契約をするのがもっとも現実的といえるでしょう。
たとえば、配偶者の信用情報に問題がなければ、配偶者の名義で新規契約をすることができます。
家族全員の携帯をひとりの契約名義にまとめれば、多くの携帯電話会社で「家族割」が適用されるので、料金もお得です。
ここまで、自己破産をすることによって携帯が解約されるのかどうか、新規契約はできるのかどうかという問題についてご説明してきました。
一方で、自己破産をする前に注意しておかなければ免責を受けられなくなるケースや、状況によっては自己破産よりも良い解決法がある場合もあります。
ここでは、そんなポイントをご紹介します。
前記2の(1)、(2)で携帯の利用料金の滞納や端末の分割代金の未払いがあると自己破産によって携帯が解約されてしまうことをご説明しました。
そうであれば、自己破産を申し立てる前に滞納金や分割代金を一括払いしてしまおうと考える方もいらっしゃることでしょう。しかし、これには注意が必要です。
貸金業者など他の債権者にも何とか支払いをしている時期であれば、携帯の滞納金や分割代金を一括払いすることに問題はありません。
しかし、他の債権者に支払えなくなった後に携帯電話会社だけに支払うと、「偏頗(へんぱ)弁済」として免責不許可事由に該当し、免責を受けられなくなる可能性があります。
特に、弁護士に自己破産手続を依頼した後は全ての債務の返済をストップしているはずなので、携帯電話会社に支払いを行うことは問題になりやすいです。
ただし、家族などの第三者に一括払いしてもらうことは問題ありません。頼れる人がいる場合は、事情を話して協力してもらうといいでしょう。
携帯決済とは、さまざまな物の購入やサービス利用の際に携帯で決済し、代金は毎月の携帯の利用料金と合わせて支払うことができるサービスのことです。「キャリア決済」とも呼ばれます。
携帯決済を利用している方も少なくないと思いますが、自己破産をしても携帯を使い続ける場合は注意が必要です。代金は毎月1回引き落とされるため、それが「偏頗(へんぱ)弁済」に該当してしまうおそれがあるのです。
自己破産をすることに決めたとき、携帯決済の利用は一時的にストップする方が無難です。
債務整理の方法は自己破産だけではなく、他に個人再生と任意整理もあります。
このうち、自己破産と個人再生は裁判所に申し立てて借金を減免してもらう手続きであるため、全ての債権者を平等に扱う必要があります。
そのため、携帯の利用料金の滞納や、端末の分割代金の未納があると、携帯を解約されてしまいます。
それに対して、任意整理は裁判所を介さずに各債権者と話し合う手続きなので、厳格に全ての債権者を平等に扱う必要まではありません。
携帯電話会社にだけ滞納金や未納金を支払い、他の債権者とだけ任意整理をすることも可能です。こうすれば、携帯を解約されることはありません。
ただ、任意整理の場合も約5年間はブラックリストに掲載されてしまうので、その後は端末の分割購入は難しくなります。
借金額や生活状況によっては、自己破産しか選択肢がない場合もありますが、任意整理を選択することが有効かどうかを弁護士に相談してみるといいでしょう。
この記事でご説明したとおり、自己破産をしても基本的に携帯を持つことは可能ですし、仮に解約されたとしても携帯を利用する方法はいろいろあります。
しかし、肝心なことは借金問題を適切に解決することです。借金問題を解決できなければ、格安SIMや家族名義の携帯などを使っても、料金の支払いに苦しんでしまうことでしょう。
借金問題を解決するためには、早めに弁護士に相談することが大切です。早めに相談することで、携帯の利用に影響が及ばない解決方法を選択することもできます。
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最近では、共働き夫婦の増加により、お互いの財布事情に関知しない夫婦も珍しくありません。
そのため、妻に借金があることに気づいたときには、借金の額が手に負えないくらい膨らんでいて「自己破産以外に解決方法がない」と追い詰められてしまうケースもあります。
しかし同時に、自己破産をすると配偶者である自分や子どもに何かしらの悪影響が出るのではないか、と不安に感じる方もいるでしょう。
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借金返済に完全に行き詰まったときであっても、「どうしても自己破産したくない」と考える方は実は少なくありません。一般の人にとっては、それだけ自己破産に悪いイメージがあるのだと考えられます。
また債務整理というと、自己破産を思い浮かべる人も多いため、債務整理それ自体に抵抗感を覚える人も珍しくありません。
しかし、債務整理の方法は自己破産だけではなく、財産を処分せずに今後の分割払いの負担を軽くしてもらうことで借金を解決するものもあります。
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