債務整理 弁護士コラム
自営業の人は、事業のために金融機関から借り入れをすることもあり、サラリーマンの場合に比べ高額な借金を抱えるケースも少なくありません。
特に、会社の負債を経営者自身が個人保証しているようなケースでは会社の負債を整理することで自宅等を失ってしまうリスクがあります。
「何とか自力で解決したい」と債務整理の着手が遅くなってしまうことも少なくありません。債務整理によって自分の事業を失いたくないと考える方もいるかと思われます。
そこで、今回は自営業者が会社やマイホームを失わずに借金を解決するための方法などについてまとめてみました。
この記事で分かること
自営業者の借金は、事業用の借り入れを含んでいる場合も多く、深刻な問題(多額の借金)になることが多いです。
多額の借金を返せなくなったときの解決方法としては、自己破産を思い浮かべる人が多いと思います。
しかし、自営業者が借金解決方法として自己破産を選択したときには、これから解説するようなデメリットが生じてしまいます。
法人形態で商売をしている自営業者は、その法人の役員(取締役・代表社員など)に就任していることが一般的でしょう。
会社役員である自営業者が自己破産した場合には、会社役員を退任しなければならなくなります。
株式会社の取締役の場合には、取締役が自己破産したことによって、会社との「委任契約」が法律によって自動的に解約されてしまうからです(民法653条3項)。
持分会社(合同会社・合名会社・合資会社)の役員の場合にも、会社への出資金が自己破産による差し押さえの対象となるため、社員としての地位を失うことになるのが原則です。
社員としての地位を失えば、役員としての地位も失うことになります。
自己破産が原因で退任した場合でも、役員として再任されることは可能です。
理屈の上では退任後すぐに再任してもらうことも不可能ではありません。
ただし、役員再任のために必要とされる定款上の手続きを経なければなりませんし、法人登記の手続きも行う必要がありますから、実際には退任直後に再任してもらうのは難しい場合が多いといえます。
また、次に解説する信用情報との関係でも、自己破産した経営者がすぐに代表権のある役員として復帰することは避けた方が良い場合が多いともいえます。
自己破産(などの債務整理)をしたときや、借金を長期間滞納してしまったときには、信用情報に事故情報が登録されてしまいます。
信用情報とは、クレジットやローンなどの信用取引に関する契約内容や返済・支払状況・利用残高などの取引情報のことで、金融機関が加盟している信用情報機関のデータベースで共有されています。
いわゆる「ブラックリスト入り」というのは、信用情報に事故情報が登録されることをいいます。
信用情報に事故情報が登録されている期間は、金融機関から融資を受けることは事実上不可能となります。
事故情報が残っていれば融資の審査に通ることはほとんど考えられないからです。
また、中小企業が金融機関から融資を受ける際には、その代表者の信用情報を調査されることが一般的です。
したがって、自営業者が自己破産直後に法人の代表者として再任されたときには、信用情報が消去されるまでは、経営する会社への融資も難しくなることを覚悟しておく必要があります。
自己破産した場合の事故情報の登録期間は、銀行からの借り入れの有無によって異なることが一般的です。
銀行のほとんどすべてが、加盟している信用情報機関(KSC:全国銀行個人情報センター)は、自己破産の情報の登録期間を10年としているためです。
銀行からの借り入れが全くない場合には、事故情報は5年で消える場合が一般的ですが、自営業者の自己破産は「銀行からの借り入れが返せない」ことも多いと思われるので注意が必要です。
中小企業の経営が苦しくなったときには、経営者の個人名義の借金で会社の運営資金を工面するケースも少なくないようです。
このような場合に、会社と一緒に経営者が自己破産したときには、事業上の借金と生活上の借金(住宅ローンなど)を区別して処理することができません。
そのため、別の職に就いて収入を得て住宅ローンを返済できる、配偶者の収入で住宅ローンを返済できるという場合であっても、住宅ローンは必ず自己破産による清算の対象となります。
また自己破産をすれば、一定額(20万円が目安の額)以上の価値のある財産は原則としてすべて差し押さえとなってしまいます。
住宅ローンを完済している自宅はもちろん、自己名義の自動車なども差し押さえの対象となるため、家族の生活にも大きな影響が出るでしょう。
自営業者が自己破産するときには、金融機関だけでなく、経営者仲間(有力な取引先の経営者)、親族などからも個人で借り入れをしているケースも多いと思います。
また、経営する会社や自分名義の借金の連帯保証人をこれらの人に頼んでいる場合もあるかもしれません。
自己破産をしたときには、すべての借金を手続きの対象にしなければならないので、知人や親族・家族からの借金も対象となってしまいます。
また主たる債務者が自己破産をすれば、連帯保証人に返済義務が生じてしまうため大きな迷惑をかけることにもなります。
家族や知り合いに迷惑を掛けたくないからと、これらの人からの借金を裁判所に申告しなければ、自己破産が失敗する(免責不許可となる)原因になります。
経営者の自己破産は、経営する事業の、営業免許の取り消しに直結することもあります。
たとえば、警備業・宅建業・旅行業・建築業などは、法人の代表者が破産者となったときに営業免許の取り消し事由となります。
借金が返せなくなった場合の解決手続きには、自己破産のほかにも「個人再生」、「任意整理(私的整理)」の方法があります。
自営業者が借金を返せなくなった場合でも、自己破産以外のこれらの方法で借金を解決できるのであれば、自分の商売への悪影響を小さく抑えられる可能性があります。
自営業者の借金は、多額の借金を抱え「自己破産でしか解決できない」と思い込んでしまうことも多いと思います。
しかし、個人再生(民事再生)を利用することができる場合、借金を大幅に減額してもらうことができるので、自己破産せずに借金を解決することも可能です。
①個人再生したときに減額される借金の程度
個人再生した場合に減額される借金の額は、「個人再生の対象となる借金の金額と債務者の保有財産」との関係で決まります。
まず、個人再生における借金の減額上限は、民事再生法の法律で下記の表の通りに定められています。
債務者が保有している「返済のために処分できる財産」が下記の金額よりも少ないとき、この金額を3年間の分割で返済すれば、残額の返済を免除してもらうことが可能です。
借金の額 | 最低限返済しなければならない金額 (最低弁済基準額) |
---|---|
100万円未満 | 全額 |
100万円~500万円未満 | 100万円 |
500万円~1500万円未満 | 債務の1/5 |
1500万円~3000万円未満 | 300万円 |
3000万円~5000万円 | 債務の1/10 |
上で述べた「返済のために処分できる財産」とは、自己破産した場合に差し押さえの対象となる財産(評価額20万円以上の財産)のことを指します。
差し押さえ対象財産の評価額合計のことを「清算価値」と呼び、個人再生においてはこの清算価値が上記の金額を超えるとき、清算価値の額よりも多い金額を返済しなければならないことになります。
個人再生においてこのような制限が生じるのは、「自己破産よりも不利な条件を債権者に強いることは不公平」と考えられるからです。
②個人再生のメリット・デメリット
個人再生で借金を解決する場合のメリットは、「債務者の財産を処分する必要がない」ことです。
個人再生では、将来の収入から借金の一部を定期的(3か月に1回以内の頻度で)返済することになるので、自己破産のような、財産処分による一括返済の必要がないのです。
ただし、担保の設定されている借金(ローンが残っている自動車など)があるときには、担保目的物が債権者によって引き上げられてしまうことがあります。
この場合でも住宅ローンに限っては、いわゆる「住宅ローン付き個人再生」を利用することで、マイホームを差し押さえられずに住宅ローンの返済条件を見直すことが可能となります。
個人再生は、マイホームを失うことなく住宅ローンの返済条件を緩和してもらい、さらに他の借金については一部免除を得られるとても効果の高い手続きです。
また、自己破産したときのように、役員を退任する必要もありませんし、営業免許への影響もありません。
個人再生のデメリットとして自己破産の場合と同様に、信用情報に事故情報が登録されてしまうことが挙げられます。
個人再生の場合にも官報公告があるため、KSCの事故情報登録期間は10年となります(他の信用情報機関は5年)。
③個人再生を利用するための要件
個人再生を利用するための要件は次のとおりです。
このうち自営業者の借金問題で特に問題となるのは、「将来の反復的・継続的な収入の見込み」です。
自営業者が借金を返済できない場合の多くは事業の行き詰まり(赤字)が原因なので、「自身の債務整理=事業の破綻」である場合も少なくありません。
とはいえ、個人再生は「正社員」でないと利用できないというわけではありません。
経営する会社も同時に債務整理することで事業継続できる可能性が生じれば、現在の事業を続けたまま経営者自身も個人再生することも不可能ではありません。
また、事業を廃止する場合でも、転職などの方法で返済に必要な収入を確保できるのであれば個人再生を利用することができます。
同居の親族による経済的な援助を加味して裁判所に個人再生利用の可否を判断してもらうこともできます。
④負債が5000万円を超えてしまったときの対処方法
事業絡みの借金や連帯保証債務があるときには、その総額が5000万円を超えてしまうことも珍しくありません。
その場合でも経営者個人の借金を「民事再生」という手続きで解決できる可能性は残されています。
民事再生は、基本的には中小企業向けの手続きですが、個人でも利用することが可能です。
民事再生の場合には個人再生に比べ、手続き成立・返済の条件が厳しくなるほか、住宅ローン特則が利用できないといった点で不利にはなります。
しかし、財産の処分が必要的ではなく、営業免許(許認可)の取消事由とはならないといった点では自己破産による解決よりもデメリットは小さいと言えます。
任意整理は債権者と個別に話し合いをして、借金の返済条件を緩やかにしてもらう和解の手続きです。
裁判所を介さないため手続きを簡素化でき、債務整理で生じるデメリットももっとも小さくなります。
①任意整理なら事業用の借金と生活上の借金を区別できる
任意整理は裁判所を介さずに、債権者と個別に話し合いをして行うものです。
そのため、「この借金は債務整理(任意整理)の対象とするが、別の借金は従来通りの条件でそのまま返済する」という対応も可能となります。
たとえば、個人名義で運転資金用に借り入れた高利子の借金だけを解決できれば、これまで通り事業を行える(生活できる)という場合には、任意整理はとても有効といえます。
②任意整理のデメリットは信用情報への登録だけ
任意整理は、対象とすると都合の悪い借金は除外して行うことができます。
したがって、任意整理のときに発生するデメリットは、原則として債務整理を行ったことによる信用情報への事故情報の登録だけです。
任意整理であれば、銀行を対象とした場合でも事故情報の登録期間も5年と短くなります(官報掲載事項ではないため)。
なお、個人再生の場合と同様に役員退任の必要もなく、営業免許への影響もありません。
任意整理は裁判所の手続きではないので、利用するための条件などが法律で決められているわけではありません。
とはいえ、債権者が任意整理に同意してもらえなければ、返済条件を変更することはできません。
そのため、こちらの都合ばかりで物事を進めるわけにもいきません。
一般的には、今後発生する利息を免除してもらったうえで、残元金を3~5年程度の分割で返済する必要があります(債権者が事業用に貸し付けたことを認識しているときには、5年を超える分割返済を認めてもらえる可能性もあります)。
したがって、分割返済に耐えられるだけの収入がある(利息の支払いがなくなれば分割で返せるだけの負債額に収まっている)ことが任意整理の条件といえます。
自営業者が借金を返せなくなる原因の大半は、事業に行き詰まってしまうことです。
したがって、自営業者が債務整理をするときには、経営する会社の債務整理もセットで行うことが原則となります。
会社の債務整理も個人の場合と同様に、自己破産以外にも次のような選択肢があります。
私的整理や民事再生であれば会社の債務整理を行ったとしても、経営権を手放さずに済む可能性も高くなります。
また、現在の事業を廃止する場合でも、近い将来の再チャレンジを考えている場合には、自己破産よりも特別清算の手続きで処理した方が、取引先にかける迷惑も小さくできる可能性があります。
これらの手続きでは、小口取引先への未払いを優先的に処理できる場合があるなど、自己破産よりも柔軟な対応をすることが可能だからです。
また、経営者が個人保証している債務についても、信用情報への登録・住居用不動産の差し押さえの回避といった特別の取り扱いをしてもらえる可能性があります(経営者保証ガイドラインの適用)。
自営業者の借金問題は、「債務整理=事業失敗・廃止」というイメージが強いためか、対応が後手にまわりがちです。
特に、「自己破産はしたくない」という気持ちや「あと数ヶ月耐えられれば状況は好転する」といった楽観的な観測から、自転車操業を繰り返し、借金をさらに膨らませてしまうケースも少なくありません。
しかし、負債額が膨らみきる前であれば、スポンサー企業の確保、私的整理による有利子負債の圧縮といった方法で、事業を継続したまま借金問題を解決できる可能性もあります。
また、第三者へ事業を譲渡することで、今後の生活・再チャレンジのための資金を確保できる場合もあるかもしれません。
いずれにせよ、「借金の返済が苦しい」と感じたときには、1日も早く弁護士に相談することが、今後のための選択肢をより多く残す上でもっとも重要といえます。
できれば債務整理をせずに借金問題を解決したいということは誰もが考えることです
とはいえ、自営業者の借金問題は金額も大きくなることが多く、一度返済に行き詰まってしまうと自力で建て直すことが難しいといえます。
特に、事業不振を原因とする場合には、短期間で業績がV字回復する可能性よりも、無理な資金繰りによって(有利子負債が増え)収益が悪化する可能性の方が高いからです。
しかし、早期に問題解決に向けて着手することができれば、会社も失わずに事業を再建できる可能性が十分残されています。
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『旦那や家族には言っていないけど、実は私、借金を抱えてます…』
実は、主婦で借金を抱えている人は多く、それを言えずに悩んでいる方もたくさんいるのが現状です。もしかしたらこの記事をご覧のあなたも、そういった悩みをお持ちなのかもしれません。
一人で悩むことなく、主婦で借金をしている人は意外と多いということを知っていただいて、ぜひご自身の借金返済について前向きに考えていってください。この記事があなたにとって、ご参考になれば幸いです。
これから債務整理をしようと考えている方の中には、債務整理後にキャッシングできるのか、債務整理中にお金が足りなくなったときキャッシングを利用することは認められるのかと、お悩みの方もいるのではないでしょうか。
結論から言うと、債務整理をしたことで、キャッシングなどを法律で禁止されるわけではありません。
しかし、債務整理をすると信用情報に事故情報が登録される(ブラックリスト入りする)ので、ほとんどの金融機関は、融資に応じてくれなくなります。
親子であっても、他人の借金を返済する義務は原則としてありません。肩代わりするかどうかは、基本的に子ども自身の判断で自由に決められます。
しかし親の借金でも子どもに返済義務が生じることがあり、借金を放置すると子どもが差し押さえを受けることにもなりかねません。
本コラムでは、親の借金が降りかかってきた場合に、子どもはどのように対処すればよいのかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。