債務整理 弁護士コラム
自己破産をすると、事案によっては裁判所が破産管財人を選任することがあります。
破産管財人とは、中立公正な立場で破産手続きを進める職務を負う役割を担う人のことです。債務者(破産者)と敵対する立場ではありませんが、的確に対応しなければ、破産手続きに失敗してしまう恐れもあります。
本コラムでは、破産管財人は具体的に何をするのか、破産者はどのような点に注意して対応すればよいのか、さらには破産管財人に支払う必要がある費用について、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
破産管財人とは、破産手続きにおいて破産財団に属する財産を管理し、処分をする権利を有する方のことです(破産法第2条12項)。裁判所によって選定されるため、指名することはできません。以下で、さらに具体的にご説明します。
破産管財人の主な役割は、破産者の財産を預かり、必要に応じて換金した上で、債権者に配当することです。
その前提として、債務者の財産状況を調査するとともに、負債についても調査して金額を確定させることも、破産管財人の役割とされています。
その他にも、債務者の生活状況や自己破産申し立てに至った経緯などを調査し、免責の可否を判断して裁判所に意見を述べるという役割もあります。
このようにして、破産管財人は破産手続きを主導的に進めていきます。それにより、債権者と債務者との権利関係を適切に調整しつつ、債務者の財産を適正かつ公平に清算するという、破産法の目的(同条1項)を実現するのです。
法律上、破産管財人となるために必要な資格は特に定められていません。しかし、実務では地元の弁護士の中から選任されます。なぜなら、裁判所外の人で、破産管財業務に関する法的知識と実務処理能力を十分に備えているのは、弁護士だけだからです。
そのため、事実上、「弁護士であること」が破産管財人の資格とされているのが実態です。
破産管財人となった弁護士には、報酬が支払われます。その報酬は、債務者が負担しなければなりません。報酬額は裁判所が定めます(破産法第87条1項)が、一般的に通常管財事件で50万円程度、少額管財事件で20万円程度とされています。
通常管財事件と少額管財事件の意味は後ほど解説しますが、少額管財事件はすべての裁判所で行われているわけではありません。少額管財事件が行われていない裁判所で破産管財人が選任された場合は、基本的に破産管財人の報酬は50万円程度となります。
破産管財人が具体的にどのようなことを行うのかについて、時系列で解説します。
破産手続きの最終的な目的は、破産者の財産を引き当てとして、各債権者に配当することです。公平な配当を実現するための前提として、誰が、いくらの債権を有しているのかを明らかにする必要があります。
破産管財人は、破産者が提出した申立書や添付書類、債権者が裁判所に届け出た書類などを精査します。それとともに、破産者に対してさらに書類や資料の提出を求めるなどして、負債額を調査するのです。
破産者が隠していたり申告し忘れたりした負債がないか、自己破産申し立て前に一部の債権者だけに返済されていないか、また、破産手続きで優先的に弁済を受けられる債権者がいないか、なども調査した上で、破産者の負債額を確定させていきます。
破産者の財産は、自由財産を除いて破産管財人が預かり、管理します。破産者が財産隠しをしていないか、申告し忘れた財産がないかについても、慎重に調査します。場合によっては、破産者の自宅や仕事場などで実地調査を行うこともあります。
そして、判明した財産は必要に応じて売却や解約などの換価処分を行い、その金銭を破産管財人名義の銀行口座に入金して保管します。
以上の手続きが終了すると、破産管財人は配当表を作成します。配当表には、債権者の名称や連絡先、各債権者の有する債権額、配当率、各債権者に対する配当額などが記載されます。
裁判所が配当表の内容を正当なものと認めて配当の許可をすれば、破産管財人から各債権者に対して、実際に配当が行われます。
配当が終了すると破産手続きは終了しますが、その後には免責手続きがあります。そして、免責を許可してよいかどうかの事情を調査することも、破産管財人の職責とされています。
具体的には、免責不許可事由がないか、ある場合にはその事由が負債の増加にどの程度の影響を及ぼしたのか、破産者の反省の態度や現在の生活状況はどうか、債権者が免責に反対するかどうか、などを調べていくのです。
最終的に免責の許否を判断するのは裁判所ですが、破産管財人は調査結果に基づき、免責許可が相当かどうかの意見を述べます。
破産管財業務が終了すると、破産管財人は、裁判所で開催される債権者集会でその顛末を報告します。このときに、免責に関する意見も申述します。これをもって、破産管財人の業務は終了です。
ただし、調査や財産の換価処分に手間を要する場合には、債権者集会までに破産管財業務が終了しないこともあります。その場合には、進捗状況の報告と今後の進行予定が報告され、続行期日が指定されます。
自己破産事件で破産管財人が選任されるのは、「管財事件」となった場合だけです。管財事件となるのは、債務者に自由財産の範囲を超える財産があるか、免責不許可事由の存在が疑われる場合です。
なお、自己破産事件の約70%は「同時廃止事件」となります。この場合、破産手続開始決定と同時に破産手続きが廃止されるため、破産管財人は選任されません。
通常管財事件とは、破産法の原則どおりに破産手続き(管財手続き)が行われる破産事件のことです。東京地裁では「特定管財事件」と呼ばれています。法律上は通常管財事件となるのが原則ですが、件数では次の少額管財事件となるケースの方が圧倒的に多くなっています。
通常管財事件となるのは、破産管財人の業務量が特に多い場合や、複雑・困難な業務が見込まれる場合などです。具体的には、個人事業主の自己破産で債権者数が多い場合や、財産状況が複雑な場合、財産隠しや偏頗弁済の疑いが濃い場合などが挙げられます。債務者本人が自己破産を申し立てた場合も、管財手続きを要する場合は原則的に通常管財事件に付されます。
少額管財事件とは、裁判所の運用により、簡略化された手続きで進められる管財事件のことです。債務者の費用負担が少額に抑えられるため、利用しやすい手続きとなっています。
少額管財事件となるのは、破産管財人の業務が簡易的な調査や、定型的な財産処分・配当手続きで終了することが見込まれるケースです。実際には管財事件の大半が少額管財事件に付されています。
ただし、通常管財事件でも少額管財事件でも、破産管財人の権限や職責は同一です。
破産管財人が選任されたときには、破産者としても以下の点に注意しなければなりません。
破産者には、破産管財人が行う調査に協力する義務があります。破産管財人から面談を求められたら応じなければなりませんし、質問には正直に答え、書類や資料の提出を指示されたら従わなければなりません。
もし、指示に従わなければ免責不許可となる可能性があるので(破産法第252条1項8号)、注意が必要です。
管財手続き中は、破産者宛の郵便物はすべて、破産管財人に転送されます(破産法第81条1項)。破産管財人が内容を確認し、財産状況や負債額、免責不許可事由の有無などを調査するためです。したがって、破産管財人から郵便物の内容に関して質問された場合には、正直に事情を説明しなければなりません。
なお、破産管財人が内容を確認した後、その郵便物は破産者に返還されます。
管財手続き中は、引っ越しや旅行をする際には事前に裁判所の許可が必要となります。許可を要する具体的なケースは裁判所によって異なることもありますが、基本的に「転居」と「2泊以上の宿泊を伴う移動」には許可が必要です。
無断で引っ越しや旅行をすると、破産管財人の業務に支障をきたす恐れがあり、場合によっては免責不許可となる可能性もあります(破産法第252条1項11号)。引っ越しや旅行をする際は、必ず自己破産を依頼した弁護士に報告し、必要があれば裁判所の許可を申請するようにしましょう。
破産管財人は、中立公正な立場で破産手続きを進める職務を担う人です。破産者としては、破産管財人の指示に従い、調査に協力しなければなりません。
不安なことがあれば、自己破産を依頼した弁護士に事前にご相談の上、対応するとよいでしょう。
これから自己破産の申し立てをお考えの方は、弁護士に依頼することで、破産管財人の選任を回避できる可能性が高まります。
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