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期限の利益とは? 借金における期限の利益を喪失した場合のリスクなども紹介

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更新日:2019年12月02日 公開日:2019年12月02日

期限の利益とは? 借金における期限の利益を喪失した場合のリスクなども紹介

金融機関で借りたお金については、毎月分割で返済をしていくのが普通です。
分割払いができれば、困っているときにまとまったお金を借りても、時間をかけて少しずつ返していけば済みますので便利でしょう。

しかし、毎月の返済を約束通りにできなかった場合には、債権者から「残金全額の一括支払い」を求められてしまうことがあります。
ローンやクレジットカードなどの契約では、毎月の返済を滞納したときなどには、「期限の利益を喪失する」ことになっているからです。

以下では、期限の利益について調べている方向けに、次のような内容を具体的に解説いたします。

•期限の利益に関する法律上のルール
•期限の利益を喪失してしまう具体的なケース
•期限の利益の喪失を主張する債権者にはどのように対応したらよいのか

この記事が、法律トラブルにお困りの方の参考になればうれしく思います。

1、期限の利益とは「返済の猶予期間」

期限の利益とは、「設定された期限まで、債務の履行(借金などの支払い)を猶予してもらえる債務者の利益(権利)」のことです。
返済義務が生じるまでに猶予期間が設けられれば、返済金を工面するのも楽になるでしょう。

  1. (1)返済期限までお金を返さなくてもいい

    たとえば、「100万円のお金を借りて10か月後に返す」という約束をしたとしましょう。

    この場合、約束した10か月後の返済期限が到来するまでは、お金は返さなくてよいことになります(これが「期限の利益」です)。

  2. (2)分割払いができるようになる

    上では、「100万円のお金を借りて10か月後に返す」という約束を例に期限の利益について説明しました。この内容であれば、10か月後に設定された「支払期日まで」に100万円を返済できれば問題ありません。

    しかし、多額の借金や立て替え払い(カードショッピング)をする場合には、一括での支払いよりも、「毎月5万円ずつを20回」というように返済する方が、債務者にとっては便利であることが少なくありません。

    このような分割払いの約束をしたときにも「期限の利益」が発生します。分割払いの約束をしていれば、債権者は「100万円をまとめて返してほしい」とは言えなくなるわけです。

  3. (3)債権者側にも利益が生じる

    他方で、分割払いを認めることは、債権者にとってはリスクでもあります。そのため、分割払いの際には、利息(手数料)も合わせて設定されることが一般的です。
    カードのボーナス1回払いでは手数料は発生しませんが、分割払い(3回以上)、リボ払いには手数料が発生することを例に考えればわかりやすいでしょう。

    利息(手数料)は、それぞれの返済日ごとに精算されることが一般的ですので、利息付きの借金や手数料が発生するクレジットカード払いでは、債権者側にも利益(利息を得る利益)が生じることになります。

  4. (4)期限の利益は放棄することもできる

    期限の利益は、自分の意思表示で「放棄する」ことができます(民法136条2項)。たとえば、「令和元年5月1日に借りた10万円を、令和元年12月31日に返す」という約束をしている場合に、債務者が、早くお金を工面できたということで、「令和元年10月1日に全額返済してしまう」場合が、期限の利益の放棄にあたります。

    無利息の借金契約であれば、債権者に利益は生じないので、債務者は自由に放棄することができます。

  5. (5)利息付きの借金では、早期に返済しても利息の支払いは免除されない

    無利息の借金であれば、支払期限の前に完済される(期限の利益の放棄)ことは、債権者にとっても利益である場合がほとんどでしょう(なので、期限の利益の放棄が一方的に行われても何の問題も起きません)。

    しかし、利息が発生している借金であれば、支払期限よりも早く完済されることは、債権者にとっては不利益になってしまいます。「受け取れる利息が少なくなる」からです。

    そこで、民法は、期限の利益の放棄は「相手方の利益を害してはいけない」とも定めています(民法136条2項ただし書き)。
    つまり、借金のある利息を繰り上げ返済するときには、契約で定められた支払期日まで利息もあわせて支払わなければなりません。

    上のケースであれば、令和元年10月1日に完済した場合でも、契約上の返済期日である令和元年12月31日までの利息は、支払う必要があるということです。

    ただし、この規定は、当事者間で別の合意をしているときには、合意内容の方が優先されます。ほとんどの借金やカードの契約では、繰り上げ返済したときには、返済日までの利息のみの負担で完済できるようになっています。

    一方で、銀行や消費者金融などの金融機関からお金を借りた場合には、「毎月10万円ずつ10か月間にわたって支払う」というように、分割払いでの返済を求められるのが一般的です。
    分割払いでの返済を毎月約束通りに行っていき、最終的に借金全額を完済することができれば何の問題もありませんが、もし毎月の返済額を返せないという状況が生じてしまうと、貸主(金融機関)の側から一括返済を求められてしまう可能性があります。

    たとえば、「当初の約束では10か月後に完済するということになっていたけれど、あなたは約束を破ったので、今すぐ全額を一括で返してください」といった具合です。

    貸主側のこのような主張のことを、法律上「期限の利益の喪失(の主張)」と呼びます。

2、期限の利益の喪失とは

期限の利益の喪失とは、「契約で認められていた期限の利益(分割払い)が事後に認められなくなること」をいいます。

  1. (1)法律上期限の利益を喪失してしまう場合

    民法には、期限の利益を喪失する場合として以下のように規定されています(民法137条)。
    第百三十七条 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
    一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
    二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
    三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

    ① 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
    破産手続開始決定を受けたときは、期限の利益を失います。期限の利益があると破産債権者として破産手続きに参加することができなくなるからです。破産手続き開始決定を受けたときは、破産した人のすべての債権者が平等に分配を受けることになります。

    ② 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき
    せっかく債権者が担保の設定を受けて安心していたとしても、債務者が担保を破損させてしまい使い物にならなくなってしまっては、期限の利益を与えている場合ではありません。このような場合はすぐに債権回収ができるよう、期限の利益はなくなるのです。

    ③ 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき
    債権債務が発生したあとまたは同時期に、債務者が担保を出す約束をしたにもかかわらず一向に出してこないとなれば、上記②同様、すぐに債権回収をしなければ債権者は安心できません。

  2. (2)契約において「期限の利益が喪失する」と定められている事情

    上記の法定事由だけでは、債権者にとってあまりにも不利といえます。たとえば、無担保の借金の契約では、債務者が破産しない限り期限の利益を失わないからです。

    そこで、実際の借金などの契約では、より詳細な期限の利益喪失事由が設定されています。その主なものについて紹介します。

    ① 分割払いの返済が遅れてしまったとき
    もっとも多いケースが分割払いの毎月返済が遅れてしまった結果、期限の利益の喪失を主張されてしまう場合です。
    毎月の返済日までに約束した返済額を支払えず、その状況が数か月にわたって継続してしまった場合、債権者は期限の利益の喪失を主張し、一括返済を求めてくる可能性があります。

    多くのケースで、契約書には返済遅れによる期限の利益喪失に関する条項が記載されています。

    ② 自己破産以外の債務整理をしたとき
    任意整理、個人再生といった、自己破産以外の債務整理をしたとき、金融機関が受任通知を受領した時点で期限の利益を喪失すると定められている場合があります。

    ③ 差し押さえなどを受けたとき
    銀行カードローンでは、債務者の預金口座の差し押さえ、仮差し押さえなどを期限の利益喪失事由とするのが一般的です。

    ④ 信用状況が著しく悪化したとき
    退職、休職、転職等によって収入が大幅に減少し、今後の返済に支障が出ると判断された場合に、期限の利益を喪失するとされていることがあります。

    ⑤ 相続の開始(債務者の死亡)
    自分が負っている借金は、相続人に相続されることになります。

    ⑥ 手形の不渡りを出したような場合
    あなたが発行した手形について、手形期日に支払いができない場合には不渡りとして銀行取引が停止になってしまう可能性があります。
    手形の不渡りを出すとその情報は金融機関に情報として共有されてしまいますから、同時に期限の利益の喪失原因となる可能性があります。

3、期限の利益を喪失すると期限前に請求される

期限の利益を喪失すると、本来の借金返済の期限がまだ来ていない状態であっても、貸主のタイミングでいつでも請求されてしまいます。分割の返済の場合でも、まとめて一括返済を請求されるのです。
担保がある場合、ない場合に分けて、以下どのような対応がなされるのかみていきましょう。

  1. (1)担保の提供をしている場合

    住宅ローンのように担保を提供している借金の場合は、その担保が実行される危険があります。

    たとえば、住宅ローンの場合であれば、債権者によってマイホームに設定された抵当権が実行されてしまいます。抵当権の実行は「競売」による売却ですから、住宅ローンを滞納して期限の利益を失えば、マイホームを強制的に売却されてしまうことになります。
    競売にかけられれば、マイホームは競売で落札した買い受け人の所有となってしまい、立ち退きを余儀なくされます。

    また、借金に保証人・連帯保証人(人的担保)が設定されている場合には、あなた代わっての借金を支払うように、保証人・連帯保証人が請求されてしまいます。
    多くのケースで保証人には親族や親しい友人などになってもらっているでしょうから、こうした人たちとの関係が悪化してしまうデメリットを被る可能性があります。

  2. (2)担保の設定がない場合

    借金に担保が設定されていない場合には、貸主はあなたの財産から借金を回収するために、民事訴訟や支払督促といった手続きをとってくる可能性が高いといえます。財産を差し押さえるためには、訴訟などの手続きを必ず経なければならないからです。

  3. (3)銀行口座が凍結されることも

    銀行からの借金を滞納したときには、期限の利益の喪失によって、銀行口座が凍結されてしまうことがあります(借金をした銀行口座に預金をしている場合)。
    銀行カードローンの契約では、債務者が返済を滞納したときには、その銀行の口座に預けられている預金と相殺して借金を回収できる契約になっているからです。

    銀行口座が凍結されると、預金が引き出せなくなるだけでなく、入金もできなくなる場合があります。
    給料の振込口座が凍結(出入金停止)されてしまえば、給料を受け取れなくなるだけでなく、振込不可となったことで、銀行トラブルになったことを勤め先に知られてしまう可能性もあります。

    このように、期限の利益を喪失すると生活上非常に大きなデメリットが生じますから、こうした事態は何とか避けなくてはなりません。

4、期限の利益喪失については弁護士に相談を

この記事を読んでいらっしゃる方の中には、「借りたお金の返済が滞ってしまい、債権者側から一括で返済をするように求められて困っている…」という状況の方も少なくないでしょう。

以下では、実際に債権者から期限の利益喪失の通知が来たときに、どのような対処をすればいいのかについて解説いたします。

  1. (1)債権者から期限の利益喪失の通知がきたら

    債権者から期限の利益の喪失を主張する内容の通知が来たら、何よりもまず債権者と連絡を取り、支払期日の延長ができないかどうか交渉をしなくてはなりません。

    あらかじめ「この日は勤務先の給料日なので、この金額であれば確実に払える」ということを見込んだうえで、真摯に交渉することが大切です。
    債権者側としても、きちんと返済してくれる見込みがあるのであれば、交渉に応じてくる可能性があります。

    ただし、状況によっては、返済条件の見直し(適用利率のアップや遅延損害金の負担など)、求められることも考えられますので注意が必要です。

  2. (2)債権者との交渉がうまくいかないときは弁護士に相談を

    すでに期限の利益の喪失を主張する債権者の連絡が来ている、返済期限までに支払いができそうになくてどうしたらよいかわからない……という状況の方は、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談することをおすすめします。
    弁護士に債権者との交渉を依頼した場合、債権者側も無理な主張は通らないことを自覚しますので、有利な条件で和解を結べる可能性があります。

    また、弁護士はあなたの借金の負担を減らすためのさまざまな方法を提案してくれます(具体的には債務整理や任意売却などの方法があります)。

    毎月、借金返済に追われて返済をしたら生活費もぎりぎりの状態……という方や、自宅に債権者からの連絡ハガキや電話が頻繁に来ていて精神的に参っているという方は、少しでも早く弁護士に相談してみてください。

5、まとめ

今回は、金融機関からお金を借りたときに問題となる「期限の利益」という言葉の意味について、具体的な事例を用いて解説いたしました。

すでに債権者側から期限の利益の喪失を主張されている場合は、残念ながらあなたの借金問題はかなり深刻な状況に陥っている可能性が高いでしょう。
もっとも、本文でも見た「債務整理」の方法を使えば、あなたの借金の負担は大幅に減らせる可能性がありますから、希望を捨ててはいけません。

債務整理については弁護士に手続き依頼することができますから、ぜひ相談を検討してみてください。

この記事の監修者
萩原達也

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
債務整理、任意整理、自己破産、個人再生、過払い金請求など、借金問題についてのお悩み解決を弁護士がサポートいたします。債務整理のご相談は何度でも無料です。ぜひお気軽に お問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
オフィス
[実績]
・債務整理の相談件数 36万8091件
  ※集計期間:2011年2月~2022年12月末
・過払い金請求 回収実績件数 90253件
・過払い金請求 回収実績金額 1067億円以上
  ※集計期間:2011年2⽉〜2022年12⽉末
[拠点・弁護士数]
全国74拠点、約360名の弁護士が在籍
※2024年2月現在
[設立]
2010年(平成22年)12月16日

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